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コラム

区分所有者が管理組合の管理者の解任を請求した事案(東京地判令和2年12月2日)

1 事案の概要

 本件は,マンションの区分所有者が管理組合の管理者に区分所有法25条2項所定の解任事由があると主張して,被告を管理組合の管理者から解任することを求めた事案。
 主たる争点は,管理者に善管注意義務違反があったかであるが,具体的には,①バルコニーの壁面穴の放置により浸水被害を生じさせたか,②不正な耐震診断結果報告と耐震補強設計実施業務の立ち往生があったか,③管理室のエアコンの工事に関しバックマージンをもらったかである。

2 裁判所の判断

 区分所有法25条2項は,管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは,各区分所有権者は,その解任を裁判所に請求することができると定めているところ,ここにいう不正な行為とは,管理者の善管注意義務に違反して区分所有者の全部又は一部に損害を被らせる故意による行為をいい,その職務を行うに適しない事情とは,職務の適正な遂行に直接又は間接に影響を及ぼす事情が存在し,それが重大なものであることをいうものと解するのが相当である。
 バルコニーの壁面の穴による漏水事故については,水事故以前に瑕疵の存在を認識していたことや,瑕疵を認識しつつ,これを故意に放置していたという事実を認めるに足りる的確な証拠がないとして,何らかの善管注意義務が発生していたとしても,管理者がこれに故意に違反していたことを認めることはできず,不正な行為をしたことを認めることはできない。そして,耐震診断や耐震補強,バックマージンについても,不正と認める証拠がないとして,善管注意義務違反を否定した。
 なお,管理規約上,マンションの住居部分のバルコニーは共用部分ではあるものの,住居部分所有の組合員は,それぞれの住居に付属するバルコニーを無償で専用使用することができること,無償で専用使用することができる条件として,この部分の維持管理の責任を負うものとされており,バルコニーの普通修繕費は専用使用しているそれぞれの組合員の負担するものとされている。本件の水漏れは,排水溝の掃除がされておらず,バルコニーに水が溜まり,エアコン用のスリーブから室内に水が入り階下に漏水したというものであった。

2 コメント

 管理者の解任請求は、区分所有法25条2項により、各区分所有者が請求することができますが、管理者である理事長が不正行為を行った場合等に損害賠償請求する場合は、各区分所有者が個別に行うことはできないと解されています。その場合、管理組合ないし管理者が原告となる必要がありますので、当該理事長を解任し(理事会で解任、あるいは総会で理事を解任)、新たな理事長を選任した上で訴訟を提起することになります。

(2022.11.10)

管理組合が変更後の管理費及び修繕積立金(以下「管理費等」という。)と従前の管理費等の差額を支払わない区分所有者らに対し、差額の支払いと違約金(弁護士費用)等の支払いを求めた事案(東京地判令和2年12月16日)

1 事案の概要

 本件は、区分所有者らが管理組合に対し、マンション管理費等の額を変更する臨時総会の決議無効確認訴訟を提起したのに対し、管理組合が当該区分所有者ら(変更後の管理費等と従前金額との差額を支払わない組合員である区分所有者ら)に対し、差額管理費等・確定遅延損害金、管理規約所定の違約金(弁護士費用相当額)並びに差額管理費等に対して支払済みまで管理規約所定の年15%の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案。
 主たる争点は、①管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項か、②管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項か、③違約金の額である。

2 裁判所の判断

(1)管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項かについて

 管理規約上、管理費等の額及び規約の変更について、いずれも総会の決議を経なければならないことを定めているが、規約の変更に関する総会の議事については特別決議で決するものと定める一方、管理費等の額の変更に関する総会の議事については特別決議の対象事項としていない。
 また、管理規約の管理費に関する条項は、管理費の額について具体的に定めた別表を引用する形式を取らず、規約本文と別表とが明確に分離されていること、これまでに数次にわたり、規約の変更を伴わずに管理費等の変更に関する議事が行われていたなど、規約の変更について管理費等の額の変更とは異なる扱いがされていたことなどから、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらず、過半数の賛成により、普通決議をもって行うことができるものと解すべきである。

(2)管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項かについて

 管理規約上、規約の制定、変更又は廃止が一部の組合員に特別の影響を及ぼすときは、その承諾を得なければならないと定めるが、本件決議は、管理費等の額の変更に関する議事であると認められ、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらないものと解されるから、本件決議について、当該条項の適用はないとした。
 なお、「特別の影響」については、管理費等を修正する必要性及び合理性と、これによって受ける区分所有者らの不利益とを比較して、当該区分所有者らの受忍すべき程度を超える不利益を認められる場合であるかににより判断されるべきであるところ、管理費については、各区分所有建物や区分所有者の個性に由来する要因をなるべく捨象し、一律に各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例させて、管理費の額を負担させることはそれ自体合理的であり、修繕積立金については、共用部分を所有することによる負担であり、区分所有建物の資産価値及び建物寿命を維持するための基金となる積立金であって、管理組合が消滅する場合には、その残余財産を構成する修繕積立金について、管理規約上、共用部分の共有持分割合に応じて各区分所有者に帰属することとされているから、各区分所有者の共有持分割合に応じて修繕積立金を負担させることは、一層合理性があるとした。そして、区分所有者らの不利益の程度については、共用部分の共有持分割合を大幅に下回る低額にとどまっていた当該区分所有者らの管理費等について、その共有持分割合に応じた金額に変更することは、富樫区分所有者らに不利益な内容ではあるが、区分所有関係の実態に照らし、各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例した管理費等の額とすることに合理性があることとの比較において、不利益は当該区分所有者らの受忍すべき限度を超えるものとは認められない。したがって、類推適用もされない。

(3)違約金の額について

 弁護士費用として総会で可決承認された着手金、報酬金(予備費)、実費(予備費)は、差額管理費の額、本訴への対応に加え、反訴提起が必要となったことなどを考慮すれば、報酬額として相当であると考えられるとして、総会での可決承認額をもって、違約金としての弁護士費用と認めた。

3 コメント

 管理費や修繕積立金等の変更は、「共有部分の管理に関する事項」に該当し、総会の普通決議で変更可能と解されています(区分所有法18条1項)。一方、管理規約の変更は、特別決議が必要であることから(区分所有法31条1項)、管理費や修繕積立金に関する定めの変更が管理規約の変更に当たるか否かにより、決議方法が異なります。
 具体的には、管理規約に具体的に管理費の額を定めている場合や管理規約で管理費を定めた別表などを引用している場合は、管理費の変更は管理規約の変更となります。一方、管理規約では具体既な金額を定めず、別表なども引用していない場合は、管理規約の変更に当たらないことになります。なお、管理規約で別表を引用した事案で、普通決議で足りるとした裁判例もあります。
 本判決は、管理規約において、規約の変更と管理費の変更を区別していること、管理費に関する規定と管理費の額を定めた別表は明確に区別されていること、管理費の変更についてこれまでも規約の変更として扱われてこなかったことなどから、管理費の額の変更は規約の変更に当たらないとしています。
 「特別の影響」については、区分所有法31条1項後段の「特別の影響」と同様の解釈の下で判断しています。
 違約金としての弁護士費用については、訴訟提起時は報酬の額や実費については確定していませんが、総会決議で予備費として計上した概算額についてそのまま認めています。

(2022.22.5)

請負業者が追加変更工事の合意が成立しているとして、追加変更工事の請負代金を請求した事案(東京地判令和3年1月28日)

1 事案の概要

 本件は、共同住宅の建築を請け負った請負業者が,注文主に対し、追加変更工事が発生し、当該追加工事についての見積額での合意が成立しているとして、追加工事代金請求をした事案。
 主たる争点は、①追加工事についての合意の有無等、②工事完成遅延による遅延損害金の発生である。

2 裁判所の判断

(1)追加工事の合意の有無等について

 請負業者が注文者に対し、工事の施工中及び完成引渡し後に各追加見積りを交付したことは認められるが,その支払について具体的な協議はなされておらず,各追加見積りの内容及び金額からすると,被告がこれを黙示に承認する趣旨で受け取ったと考えることはできない。注文主が請負業者に対し書面やメール等での個別の金額に対する査定の意見を出さなかったことなどを考慮しても,各追加見積り記載の金額を支払う黙示の合意がなされたということはできない。もっとも,注文主も各追加見積りのうち追加工事に当たる部分に関する相当の代金を支払う必要があることは認識していたといえるのであって,追加工事代金として相当額を支払うことを黙示に合意していたと認められるとして,追加工事と認定できる工事については代金請求権を認めた。
 なお、注文主が追加工事見積に対して明確に異議を述べなかったことについては、疑問を呈しつつも、契約時において当然に予定されていたと評価できる工事について追加変更工事として工事代金の支払を認めることは相当ではないとして、当初見積もりの前提となった図面に記載されている工事等は、本工事に含まれるものであり、見積落ちに過ぎないとして追加工事として認めなかった。

(2)工事完成遅延について

 契約書の完成予定日は記載していなかったが、工事の完成日を定めた工程表を交付していたことが認められることから,契約の工期を同日までと合意したと認めるのが相当であるとした。その上で、注文主から変更工事の依頼により工期が遅れた分は請負業者側の責めに帰すべき事由に当たらないとして、追加変更工事に必要な期間が終了した時点を完成日と認定し、そこから遅れた日数分の遅延損害金を認めた。

3 コメント

 追加変更工事に関する争いは、①追加工事であるか(本工事に含まれない追加の工事か)、②施工合意があるか否か(明示、黙示含む)、③有償性の合意があるか(サービス工事や是正工事にあたらないか)等でした。
 本件では、①については、契約時の見積書作成の前提となった図面に記載のある内容の工事は、契約時見積書に記載がなく、追加見積書に記載されてあったとしても、それは契約時見積書における見積落ちであり、追加工事に当たらないと判断しました。つまり、契約締結時の図面を参考資料として本工事に含まれるとしました。②については、請負業者側が出した追加工事の見積書に注文主が異議を述べなかった事実だけでは合意が成立しているとは言えないと判断しました。もっとも、当初図面にもなく、請負業者が勝手に施工したとはいえないような工事については、施工合意についてみ認め、③の有償性についても認めました。

(2022.11.9)

理事に立候補したところ、理事会により不承認とされた区分所有者らが、不承認決議をした理事及び管理会社に対し、不法行為に基づく損賠償請求をした事案(令和2年12月4日)

1 事案の概要

 マンション区分所有者らが、マンション管理組合法人の理事に立候補したところ、理事らが正当な理由なく同人らを同管理組合法人の理事の立候補者として承認せず、役員立候補権を侵害したなどと主張して、理事らに対し、不法行為に基づき損害賠償請求するとともに、理事らに対し適切な助言等をしなかったことなどが不法行為に当たると主張して、同マンションの管理業務の委託を受けている管理会社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案。

2 裁判所の判断

(1)理事らの不承認決議が不法行為に当たるかについて

 理事への立候補について理事会の承認を必要とするとした管理規約の改正条項の趣旨は、暴力団等の反社会的組織の構成員や、成年被後見人であるなどの本件管理組合の役員としての適格性に欠ける客観的な事情がある者に限り、理事会が立候補を承認しないことができるというものであり、その限度で有効であると解するのが相当である。けだし、区分所有法25条1項、49条8項及び50条4項によれば、管理組合法人の役員の選任に関しては、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって定めることとされているが、同法30条3項によれば、規約は区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならないとされており、改正条項について理事会の広い裁量を認めれば、理事らにおいて自らと意見の一致しない区分所有者の立候補を阻止することができ、当該区分所有者は、その役員としての適格性の是非を集会において他の区分所有者によって判断されて、信任、選任される機会を失う事態になるところ、このような事態が区分所有法30条3項にいう区分所有者間の利害の衡平を害するものであることは明らかだからである。

 本件では、上記不承認となる場合に当たらず、不承認決定は、理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法であったと認めるのが相当である。もっとも、本件改正条項が本件管理組合の総会の決議により承認されて設けられたものであり、管理組合の理事としては、これに従って理事会を運営すべき義務を負っていたものであるところ、改正条項においては、理事会が立候補者を役員候補者とすることの承認をするか否かについての基準について明示されておらず、理事会の裁量を制限するような定めはなかったこと、不承認決定の時点においては、改正条項が上記の趣旨の規定であることがいまだに明らかにされるには至っていなかったこと、理事らは法律専門家でないことはもちろん、マンション管理について専門知識を有する者でもないことに照らすと、理事らにおいて、改正条項によって理事会に対して許容される限度よりも広範な裁量権が与えられており、立候補者に客観的に適格性を欠く事情が存在する場合でなくても承認しないことができると誤信したことをもって、過失があるとまではいえないとし、不法行為が成立するとは認められないとした。

(2)管理会社の不法構成責任について

 管理会社は、管理組合との間の管理委託契約に基づいて、マンションの管理業務を受託し、事務管理業務として、理事会支援業務及び総会支援業務を行っており、その中には、理事会の開催、運営支援として、管理組合の求めに応じた理事会議事に係る助言や資料の作成、理事会議事録の作成といった事務も含まれているのであるから、管理組合の社員が理事会に出席し、理事会の資料を作成することに従事していたとしても、それは、管理業務の一環として行っていたにすぎず、これらの行為から当該社員が理事会の議論を主導していたと評価することはできない。また、管理会社は、管理組合から管理業務の委託を受け、管理委託契約上、管理組合の求めに応じて理事会議事や総会議事に関する助言が定められていたにすぎないのであるから、管理組合の業務執行に属する不承認決定に関して、その撤回を理事会に助言する義務があったということはできず、その他、不承認決定に関する指導・助言義務違反があったことは認められず、不法行為は成立しない。

3 コメント

 理事の立候補について理事会の承認を要するとした管理規約について限定解釈した上で有効とし、理事会の不承認について裁量権の逸脱・濫用があったと判断しましたが、理事が法律の専門家でなく、管理規約に基準が明確に定められていなかったことなどから、過失はないと判断しました。管理会社については、理事会の補助的立場であることから、不承認決定について撤回を助言するなどの義務はなく、違法性はないとしました。本事案は、一般的な事件ではありませんが、管理規約が区分所有法30条3項の定めに従う必要があるとして、管理規約の改正条項について限定解釈した点が参考となります。

(2022・11・8)

管理組合が変更後の管理費及び修繕積立金(以下「管理費等」という。)と従前の管理費等の差額を支払わない区分所有者らに対し、差額の支払いと違約金(弁護士費用)等の支払いを求めた事案(東京地判令和2年12月16日)

1 事案の概要

 本件は、区分所有者らが管理組合に対し、マンション管理費等の額を変更する臨時総会の決議無効確認訴訟を提起したのに対し、管理組合が当該区分所有者ら(変更後の管理費等と従前金額との差額を支払わない組合員である区分所有者ら)に対し、差額管理費等・確定遅延損害金、管理規約所定の違約金(弁護士費用相当額)並びに差額管理費等に対して支払済みまで管理規約所定の年15%の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案。
 主たる争点は、①管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項か、②管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項か、③違約金の額である。

2 裁判所の判断

(1)管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項かについて

 管理規約上、管理費等の額及び規約の変更について、いずれも総会の決議を経なければならないことを定めているが、規約の変更に関する総会の議事については特別決議で決するものと定める一方、管理費等の額の変更に関する総会の議事については特別決議の対象事項としていない。
 また、管理規約の管理費に関する条項は、管理費の額について具体的に定めた別表を引用する形式を取らず、規約本文と別表とが明確に分離されていること、これまでに数次にわたり、規約の変更を伴わずに管理費等の変更に関する議事が行われていたなど、規約の変更について管理費等の額の変更とは異なる扱いがされていたことなどから、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらず、過半数の賛成により、普通決議をもって行うことができるものと解すべきである。

(2)管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項かについて

 管理規約上、規約の制定、変更又は廃止が一部の組合員に特別の影響を及ぼすときは、その承諾を得なければならないと定めるが、本件決議は、管理費等の額の変更に関する議事であると認められ、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらないものと解されるから、本件決議について、当該条項の適用はないとした。
 なお、「特別の影響」については、管理費等を修正する必要性及び合理性と、これによって受ける区分所有者らの不利益とを比較して、当該区分所有者らの受忍すべき程度を超える不利益を認められる場合であるかににより判断されるべきであるところ、管理費については、各区分所有建物や区分所有者の個性に由来する要因をなるべく捨象し、一律に各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例させて、管理費の額を負担させることはそれ自体合理的であり、修繕積立金については、共用部分を所有することによる負担であり、区分所有建物の資産価値及び建物寿命を維持するための基金となる積立金であって、管理組合が消滅する場合には、その残余財産を構成する修繕積立金について、管理規約上、共用部分の共有持分割合に応じて各区分所有者に帰属することとされているから、各区分所有者の共有持分割合に応じて修繕積立金を負担させることは、一層合理性があるとした。そして、区分所有者らの不利益の程度については、共用部分の共有持分割合を大幅に下回る低額にとどまっていた当該区分所有者らの管理費等について、その共有持分割合に応じた金額に変更することは、富樫区分所有者らに不利益な内容ではあるが、区分所有関係の実態に照らし、各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例した管理費等の額とすることに合理性があることとの比較において、不利益は当該区分所有者らの受忍すべき限度を超えるものとは認められない。したがって、類推適用もされない。

(3)違約金の額について

 弁護士費用として総会で可決承認された着手金、報酬金(予備費)、実費(予備費)は、差額管理費の額、本訴への対応に加え、反訴提起が必要となったことなどを考慮すれば、報酬額として相当であると考えられるとして、総会での可決承認額をもって、違約金としての弁護士費用と認めた。

3 コメント

 本判決は、管理規約において、規約の変更と管理費の変更を区別していること、管理費に関する規定と管理費の額を定めた別表は明確に区別されていること、管理費の変更についてこれまでも規約の変更として扱われてこなかったことなどから、管理費の額の変更は規約の変更に当たらないとしています。
 「特別の影響」については、区分所有法31条1項後段の「特別の影響」と同様の解釈の下で判断しています。
 違約金としての弁護士費用については、訴訟提起時は報酬の額や実費については確定していませんが、総会決議で予備費として計上した概算額についてそのまま認めています。

(2022.11.5)

注文主が請負業者に対し、木造建物に関する建物建築請負契約に債務不履行があり同契約を解除したとして、前払金返還請求や損害賠償請求をした事案。(東京地判令和3年6月2日)

1 事案の概要

 木造建物の建築を依頼したところ、設計図書のうちの基礎断面図の記載と異なる施工がされていたことが判明したことから、注文主が請負業者に是正を要求したところ、是正のためには配筋を全体的に解体する必要があることが判明し、請負業者が基礎配筋の一部を解体したが、その後一切工事を行わなかったことから、注文主が債務不履行を理由に契約を解除し、前払金の返還と損害賠償請求を行った事案。

2 裁判所の判断

 請負業者は、コロナ罹患や契約締結前の事情を抗弁として主張したが、コロナ罹患があったとしても工事を長期間行わずなかったことについて帰責性がないとは言えず、契約締結前の事情は考慮要素とはならないとしてた。そして、請負契約上予定されていた完成日までに建物が完成していないのみならず、工事が中断したままで、その後の相当期間経過時点において完成する見込みがないとして、注文主による契約解除を認めた。

 損害としては、完成が遅れたことによる逸失利益、完成が遅れたことにより必要となった資金の借り換えに関する前払い利息、印紙代、一部残された基礎配筋が使用可能か判断するための調査費用、解体費用について相当因果関係のある損害として認めた。なお、家賃収入については、全室満室になったということもできないが、入居者が全くなかったということもできないとして、原告請求の16か月分(当初予定から遅れた期間分)について4分の3を限度で認めた。

3 コメント

 契約上予定された完成日を過ぎた後も相当期間工事が中断したままであったことを踏まえると、債務不履行解除は妥当と考えらえます。収益物件の場合、完成が遅れたことにより得られるはずであった賃料が得られなかったとして、完成が遅延した期間分の賃料収入相当額についての損害が争点となることがあります。多くの事案で損害として認められていますが、満室想定で認められることは考えにくく、本件では4分の3を限度として認められました。

(2022.11.5)

マンション管理組合法人が長期間管理費などを滞納している区分所有者に対し、区分所有法59条1項の競売請求等をした事案(東京地判令和2年12月22日)

1 事案の概要

 本件は,マンションの管理組合法人が、区分所有権者である会社が長期にわたり管理費及び修繕積立金並びに電気料金及び敷地の公租公課に係る立替金の支払を滞納し,区分所有者の共同の利益に反する行為により区分所有者の共同生活上の障害が著しいとして,当該会社と当該会社から使用貸借してこれを占有する者に対し,上記障害を除去するため,当該会社に対し,区分所有法59条1項に基づき,本件物件の競売を請求するとともに,占有者に対し,区分所有法60条1項に基づき,当該会社と占有者との間のマンションの使用に関する使用貸借契約の解除及び本件建物の引渡しを求めた事案。
 主たる争点は、区分所有法59条1項及び同法60条1項の要件を満たしいるか否かである。

2 裁判所の判断

 管理費等並びに固定資産税及び電気料金の立替金等について,既に支払いを命ずる判決が確定しているにもかかわらず、その後も滞納金を完済することはなく,滞納金が合計1071万1020円に上っている。このように,長年にわたり管理費等の支払を滞納し,その滞納額が極めて多額に上ることに鑑みれば,滞納金の未払は,建物の管理又は使用に関するマンションの区分所有者の共同の利益に反するものであり,これによる共同生活上の障害が著しいものということができる。
 そして,当該区分所有建物には債権額を2100万円とする抵当権が設定されているのに対し,当該競売事件における当該区分所有建物の評価額は2156万円にとどまると認められることを勘案すれば,マンション管理組合が判決や滞納金に係る先取特権(区分所有法7条)に基づき競売を申し立てたとしても,無剰余により取り消される見込みが高いというべきである。そうすると,区分所有法59条に基づく区分所有権の競売の請求及び区分所有法60条に基づく占有者に対する引渡し請求以外の他の方法によっては,上記障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であると認められる。
 以上の通り判断し、マンション管理組合法人の請求を認めた。

3 コメント

 区分所有法59条の競売の申立は、区分所有者が他の区分所有者の共同の利益を著しく障害し、他の方法(区分所有法57条1項の共同利益は違反行為の停止請求、同法58条1項の専有部分の使用禁止請求、同法7条の先取り特権の実行としての専有部分の競売等)によっては障害の除去が出来ない場合に、他の区分所有者全員又は管理組合法人が、その区分所有者が所有する区分所有建物(敷地利用権を含む)の競売を請求できると規定しています。
 そして、本規定による競売は,競売手続の円滑な実施及びその後の売却不動産をめぐる権利関係の簡明化ないし安定化,買受人の地位の安定化の観点から,民事執行法59条1項が適用され,区分所有権の上に存する担保権が売却によって消滅し、民事執行法63条は適用されず無剰余取消がされることはないと解されており(東京高判平成16年5月20日)、本判決も同様の判断をしています。もっとも、無余剰であれば、競売代金から滞納分を回収することができませんが、最終的には、区分所有法8条により管理費等の支払い義務を承継することになる新しい区分所有者から回収することになります。

(2022.11.4)

管理組合が管理費の滞納のある区分所有者に対し、滞納している管理費及び管理規約に定めた違約金等並びに管理費の将来請求をした事案(東京地判令和3年1月22日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの管理組合が、管理費の滞納のある区分所有者に対し、管理規約に基づき、未払管理費等と管理規約所定の年18%の割合による遅延損害金並びに違約金(弁護士費用、督促費用等)及びこれに対する民法所定の遅延損害金の連帯支払を求めると共に、今後到来する管理費等及びこれに対する管理規約所定の年18%の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)違約金等の認識の有無が請求権に影響を及ぼすかについて

 管理規約は、マンションの区分所有者間の権利義務関係を定めるものであり、区分所有者らの認識の有無に関わらず、建物の区分所有権を取得した者にも当然に効力がおよぶものである(区分所有法46条1項)から、遅延損害金や違約金の定めについても効力が及ぶとした。

(2)将来に履行期限が到来する管理費等について

 管理を5年程滞納し、弁護士の督促にもかかわらず、わずかな金額しか支払いをせず、その後も滞納していることなどから、今後も管理費等を滞納するおそれは高く、そうなると、管理組合としてはまたしても費用をかけて管理費等の支払を求める法的措置を採らなければならない状況に陥ることが予想されるのであるから、管理組合において、当該区分所有者が建物の区分所有権を喪失するまでの将来の管理費等の支払について、予め給付判決を得ておく必要が認められるとし、当該区分所有者が本件建物の区分所有権を喪失するまで、毎月、指定日限り、管理費及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年18%の割合による遅延損害金の支払義務を負うとした。

(3)既払管理費の充当関係について

 後れて支払った管理費は、法定充当(民法491条1項)と異なる合意はないから、法定充当に基づいて遅延損害金に充当する。

3 コメント

 管理費の滞納が長期にわたり、督促に誠実に応じなかったことから、今後の管理組合のリスクを踏まえ、将来請求までみとめられました。

(2022.9.2)

管理組合が、管理規約に基づいて、区分所有者及び占有者に対し、占有者が建物内での犬の飼育の差止めと排除を求めるとともに、管理規約に基づく違約金を求めた事案。(東京地判令和3年1月14日)

1 事案の概要

 本件は、管理組合の管理者が、管理規約に基づいて、区分所有者及び占有者に対し、占有者が建物内での犬の飼育の差止めと排除を求めるとともに、管理規約に基づく違約金(弁護士費用等)を求めた事案。

2 裁判所の判断

 占有者が飼育している犬は、管理規約で定めたサイズをオーバーするものであり、規約に違反しているとして、飼育の差し止めと違約金(管理規約で定めた訴訟費用、弁護士費用)の一部の支払いを認めた。

2 コメント

 区分所有者は、アメリカの例などを出し、飼育することについて人格権の主張をしたが、独自の主張として採用されませんでした。また、違約金を一部としたのは、弁護士費用が比較的高額であったからと思われます。

(2022.9.2)

設計会社の報酬請求に対し、発注者側が予算オーバーによる債務不履行を理由に契約解除を主張した事案(東京地判令和3年7月30日)

1 事案の概要

 本訴は、設計業者が、発注者に対し、建物の建替えに関する基本設計業務委託契約に係る事務につき債務の本旨に従った履行をしたと主張して、報酬請求をしたのに対し、発注者が設計会社に対し、設計内容を実現するための工事費の見込額が被告の設定した予算内となるように基本設計業務をするとの合意がされていたところ、原告による基本設計は工事費の見込額が上記予算を超過しており、原告が履行期間内に債務の本旨に従って基本設計業務を完了しなかったことから、契約を解除したとして、既払金の返還等を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)債務不履行解除の有効性について

 コンサルタントの「総事業費20億円に無理に合わせる必要はないが、30億円超はオーナーにとって高いかもしれない。」との発言などの事情は、本件契約において30億円までの予算設定が許容されていたことを基礎付けるものとは認め難いとして、概算工事費(予算)につき「税込み約20億円」ないし「坪単価95万円×延床面積約2182坪」が目安として示されていたものと認められるとし、設計会社は、契約上、これらの目安に留意しつつ設計業務をすべき義務を負っているとした。
 そして、「現行案」の概算工事費が30億3800万円余り(税別)にまで増加した主たる原因は、発注者側が様々な要望を立て続けに示し、設計会社が、そのような要望の多くを基本設計の中に盛り込んでいったことによるものであるところ、発注者側においては、自己が示した要望を満たすためには工事費の増加が見込まれることそれ自体は当然想定できるものというべきではあるが、具体的な増加金額を正確に見通すことは必ずしも容易なことではないと考えられ、契約に基づく基本設計が不動産賃貸事業用の建物に関するものであることも勘案すると、概算工事費の目安に留意しつつ設計業務をすべき本件契約上の義務を負っていた設計会社においては、発注者側から建物の用途・仕様、付加価値設備等に関して概算工事費に影響を及ぼすような新たな要望がされた場合には、その要望を満たすためにはどの程度の工事費の増加が見込まれるかを適宜のタイミングで説明するとともに、打合せの節目には、それまでの打合せの結果を踏まえた概算工事費の額を提示するなどして、契約に関して示されていた概算工事費の目安と被告側の種々の要望とを十分に調整した上で設計業務をすることが、契約に基づく基本設計業務の内容をなすものとして求められていたものというべきであるとした。
 その上で、本件では、設計会社において、発注者側から要望された項目につき、それを満たすためにどの程度の工事費の増加が見込まれるかを個別に説明したことはそれほど多くなく、また、全体の概算工事費については、基本設計図書を発注者側に送付するまで示していなかったものである。そして、基本設計図書において示された概算工事費が概算工事費の目安を大きく超えたもの(7から8億超)となっていたものであり、また、解除がされるまでの間に原告から示された減額案(最も概算工事費を押さえたもので2億強超)も、概算工事費の目安とは未だ億単位の開きがあったことからすれば、設計会社においては、算工事費の目安に留意しつつ設計業務をすべき本件契約上の義務を履行したものとはいえず、債務不履行を理由とする解除は有効とした。

(2)出来高分に清算について

 契約上、割合報酬を認めているとして、①契約の内容、②契約に定められた業務期間における両当事者の交渉経緯及び内容、③基本設計図書に係る基本設計の内容は、建物の客観的な性能、仕様、用途等の点からすれば、契約において求められる水準を十分に満たすものであったこと、④設計者側かから示された各種案の内容等を踏まると、概算工事費の目安に沿うものに調整することは可能であったというべきこと、⑤契約上、発注者においては、基本設計図書を利用して実施設計を行い、建築物を1棟完成させる目的及既存建物の増築等のために必要な範囲で、基本設計図書の複製、変形、翻案、改変その他修正などをすることができるものとされていることなどを勘案すると、本件において、契約が解除されるまでの間に債務の本旨に従って履行した割合は5割と認めるのが相当であるとした。

3 コメント

 設計業務においては、依頼者の要望を聞き取りする中で、当初の予定額から建築の概算額が増えることがあり、これを理由に紛争に発展することが少なくありません。本判決は、そうした事情を前提に、設計会社がその都度丁寧に増額見込みについて説明し、予算額に近い金額に納めなかったことが債務不履行に当たるとしました。
 また、本判決は、契約上、割合報酬請求の規定があるので、設計内容自体は有用であるとして、5割の範囲で報酬を認めました。本件は、契約を根拠としていますが、民法634条は請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できると規定しているので(最判昭和56年2月17日同旨)、契約に定めがなくでも割合報酬の請求が可能です。なお、設計契約は請負契約が準委任契約か争われる場合がありますが、準委任契約の場合でも、民法648条3項は委任契約が委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき、又は、委任が履行の中途で終了したときに割合報酬請求できることを規定しているので、同様に割合報酬を請求することができます。

(2022.9.2)