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設計会社の報酬請求に対し、発注者側が予算オーバーによる債務不履行を理由に契約解除を主張した事案(東京地判令和3年7月30日)

1 事案の概要

 本訴は、設計業者が、発注者に対し、建物の建替えに関する基本設計業務委託契約に係る事務につき債務の本旨に従った履行をしたと主張して、報酬請求をしたのに対し、発注者が設計会社に対し、設計内容を実現するための工事費の見込額が被告の設定した予算内となるように基本設計業務をするとの合意がされていたところ、原告による基本設計は工事費の見込額が上記予算を超過しており、原告が履行期間内に債務の本旨に従って基本設計業務を完了しなかったことから、契約を解除したとして、既払金の返還等を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)債務不履行解除の有効性について

 コンサルタントの「総事業費20億円に無理に合わせる必要はないが、30億円超はオーナーにとって高いかもしれない。」との発言などの事情は、本件契約において30億円までの予算設定が許容されていたことを基礎付けるものとは認め難いとして、概算工事費(予算)につき「税込み約20億円」ないし「坪単価95万円×延床面積約2182坪」が目安として示されていたものと認められるとし、設計会社は、契約上、これらの目安に留意しつつ設計業務をすべき義務を負っているとした。
 そして、「現行案」の概算工事費が30億3800万円余り(税別)にまで増加した主たる原因は、発注者側が様々な要望を立て続けに示し、設計会社が、そのような要望の多くを基本設計の中に盛り込んでいったことによるものであるところ、発注者側においては、自己が示した要望を満たすためには工事費の増加が見込まれることそれ自体は当然想定できるものというべきではあるが、具体的な増加金額を正確に見通すことは必ずしも容易なことではないと考えられ、契約に基づく基本設計が不動産賃貸事業用の建物に関するものであることも勘案すると、概算工事費の目安に留意しつつ設計業務をすべき本件契約上の義務を負っていた設計会社においては、発注者側から建物の用途・仕様、付加価値設備等に関して概算工事費に影響を及ぼすような新たな要望がされた場合には、その要望を満たすためにはどの程度の工事費の増加が見込まれるかを適宜のタイミングで説明するとともに、打合せの節目には、それまでの打合せの結果を踏まえた概算工事費の額を提示するなどして、契約に関して示されていた概算工事費の目安と被告側の種々の要望とを十分に調整した上で設計業務をすることが、契約に基づく基本設計業務の内容をなすものとして求められていたものというべきであるとした。
 その上で、本件では、設計会社において、発注者側から要望された項目につき、それを満たすためにどの程度の工事費の増加が見込まれるかを個別に説明したことはそれほど多くなく、また、全体の概算工事費については、基本設計図書を発注者側に送付するまで示していなかったものである。そして、基本設計図書において示された概算工事費が概算工事費の目安を大きく超えたもの(7から8億超)となっていたものであり、また、解除がされるまでの間に原告から示された減額案(最も概算工事費を押さえたもので2億強超)も、概算工事費の目安とは未だ億単位の開きがあったことからすれば、設計会社においては、算工事費の目安に留意しつつ設計業務をすべき本件契約上の義務を履行したものとはいえず、債務不履行を理由とする解除は有効とした。

(2)出来高分に清算について

 契約上、割合報酬を認めているとして、①契約の内容、②契約に定められた業務期間における両当事者の交渉経緯及び内容、③基本設計図書に係る基本設計の内容は、建物の客観的な性能、仕様、用途等の点からすれば、契約において求められる水準を十分に満たすものであったこと、④設計者側かから示された各種案の内容等を踏まると、概算工事費の目安に沿うものに調整することは可能であったというべきこと、⑤契約上、発注者においては、基本設計図書を利用して実施設計を行い、建築物を1棟完成させる目的及既存建物の増築等のために必要な範囲で、基本設計図書の複製、変形、翻案、改変その他修正などをすることができるものとされていることなどを勘案すると、本件において、契約が解除されるまでの間に債務の本旨に従って履行した割合は5割と認めるのが相当であるとした。

3 コメント

 設計業務においては、依頼者の要望を聞き取りする中で、当初の予定額から建築の概算額が増えることがあり、これを理由に紛争に発展することが少なくありません。本判決は、そうした事情を前提に、設計会社がその都度丁寧に増額見込みについて説明し、予算額に近い金額に納めなかったことが債務不履行に当たるとしました。
 また、本催場版は、契約上、割合報酬請求の規定があるので、設計内容自体は有用であるとして、5割の範囲で報酬を認めました。本件は、契約を根拠としていますが、民法634条は請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できると規定しているので(最判昭和56年2月17日同旨)、契約に定めがなくでも割合報酬の請求が可能です。なお、設計契約は請負契約が準委任契約か争われる場合がありますが、準委任契約の場合でも、民法648条3項は委任契約が委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき、又は、委任が履行の中途で終了したときに割合報酬請求できることを規定しているので、同様に割合報酬を請求することができます。

(2022.9.2)