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マンション管理組合法人が長期間管理費などを滞納している区分所有者に対し、区分所有法59条1項の競売請求等をした事案(東京地判令和2年12月22日)

1 事案の概要

 本件は,マンションの管理組合法人が、区分所有権者である会社が長期にわたり管理費及び修繕積立金並びに電気料金及び敷地の公租公課に係る立替金の支払を滞納し,区分所有者の共同の利益に反する行為により区分所有者の共同生活上の障害が著しいとして,当該会社と当該会社から使用貸借してこれを占有する者に対し,上記障害を除去するため,当該会社に対し,区分所有法59条1項に基づき,本件物件の競売を請求するとともに,占有者に対し,区分所有法60条1項に基づき,当該会社と占有者との間のマンションの使用に関する使用貸借契約の解除及び本件建物の引渡しを求めた事案。
 主たる争点は、区分所有法59条1項及び同法60条1項の要件を満たしいるか否かである。

2 裁判所の判断

 管理費等並びに固定資産税及び電気料金の立替金等について,既に支払いを命ずる判決が確定しているにもかかわらず、その後も滞納金を完済することはなく,滞納金が合計1071万1020円に上っている。このように,長年にわたり管理費等の支払を滞納し,その滞納額が極めて多額に上ることに鑑みれば,滞納金の未払は,建物の管理又は使用に関するマンションの区分所有者の共同の利益に反するものであり,これによる共同生活上の障害が著しいものということができる。
 そして,当該区分所有建物には債権額を2100万円とする抵当権が設定されているのに対し,当該競売事件における当該区分所有建物の評価額は2156万円にとどまると認められることを勘案すれば,マンション管理組合が判決や滞納金に係る先取特権(区分所有法7条)に基づき競売を申し立てたとしても,無剰余により取り消される見込みが高いというべきである。そうすると,区分所有法59条に基づく区分所有権の競売の請求及び区分所有法60条に基づく占有者に対する引渡し請求以外の他の方法によっては,上記障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であると認められる。
 以上の通り判断し、マンション管理組合法人の請求を認めた。

3 コメント

 区分所有法59条の競売の申立は、区分所有者が他の区分所有者の共同の利益を著しく障害し、他の方法(区分所有法57条1項の共同利益は違反行為の停止請求、同法58条1項の専有部分の使用禁止請求、同法7条の先取り特権の実行としての専有部分の競売等)によっては障害の除去が出来ない場合に、他の区分所有者全員又は管理組合法人が、その区分所有者が所有する区分所有建物(敷地利用権を含む)の競売を請求できると規定しています。
 そして、本規定による競売は,競売手続の円滑な実施及びその後の売却不動産をめぐる権利関係の簡明化ないし安定化,買受人の地位の安定化の観点から,民事執行法59条1項が適用され,区分所有権の上に存する担保権が売却によって消滅し、民事執行法63条は適用されず無剰余取消がされることはないと解されており(東京高判平成16年5月20日)、本判決も同様の判断をしています。もっとも、無余剰であれば、競売代金から滞納分を回収することができませんが、最終的には、区分所有法8条により管理費等の支払い義務を承継することになる新しい区分所有者から回収することになります。

(2022.11.4)