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コラム

途中から電気設備工事を引き受けた電気設備業者が発注者に対し、請負代金(追加工事含む)の支払いを求めた事案(東京地判令和3年6月18日)

1 事案の概要

v新築工事における電気設備工事(本工事及び追加工事)を請け負った電気設備業者が,発注者に対し、本件工事を完成させたと主張して,請負契約に基づく未払請負代金及びこれに対する引渡日の後から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めた事案。

2 裁判所の判断

 工事を引き継いだ時点で撮影した現場写真をもとに見積書記載の工事が必要であったと認定し、当初見積書と実際に行った工事から、本工事と追加工事の内容を認定し、金額も不相当ではないとして、請負業者の請求を認めた。

3 コメント

 契約締結時の見積書の内容が請負契約の内容を特定するために重要であること、途中から工事を引き継ぐ場合は、引継ぎ当初の状況を撮影して資料として残しておくことが請負業者にとっては重要であることがわかります。

(2022.9.2)

管理組合法人が法人設立前の理事長に対し、不正な支出があったとして債務不履行に基づく損害賠償請求した事案(東京地判令和3年6月25日)

1 事案の概要

 本件は、区分所有建物の管理組合法人である原告が、法人となる前の管理組合の理事長であった者に対し、同人が同組合の経費を不正に支出したこと及び区分所有者に対する管理費等の請求を怠り、請求権を時効消滅させたことにつき、職務を誠実に行う義務に違反した債務不履行があるとして、損害賠償請求した事案。

2 裁判所の判断

 管理組合の理事長(区分所有法上の管理者)は、管理組合に対し、善管注意義務を負い(区分所有法28条、民法644条)、管理規約上も、法令、規約及び使用細則ならびに総会の決議に従い、組合員のため、誠実にその職務を遂行する義務する義務(誠実義務)を負っていたほか、通常総会を招集した上で、毎会計年度の収支予算案を提出し、その承認を得たり、前会計年度の収支決算案を報告し、その承認を得たりする義務を負っていたとし、総会の承認を得ないで、自分の報酬を増額し、コンサルタントやトランクルームと契約してその費用を支払い、外部の者との飲食代や手土産代を支払い、相当性のないタクシー代を支払い、未払管理費の一部について時効中断手続きをとらなかったこと等について債務不履行責任を認めた。なお、元理事長から他の理事等の監視義務違反についても主張されたが、元理事長の責任の有無に影響はないとした。

3 コメント

 理事長は、善管注意義務を負っていますので(区分所有法28条、民法644条)、義務違反があれば債務不履行責任を負うことになります。また、違法行為があれば不法行為責任を負うことになりなす。なお、本件は、債務不履行責任を問われていますので、弁護士費用については請求されていません。

(2022.10.31)

焼き鳥屋の内装工事について瑕疵があるとして、内装業者に修補費用、逸失利益、弁護士費用等を請求した事案(東京池判令和3年8月24日)

1 事案の概要

 本件は、焼き鳥店を開業するために店舗内装工事を発注した者が、内装業者に対し、瑕疵があったなどと主張して、瑕疵担保責任に基づく修補に代わる損害賠償及び債務不履行に基づく損害賠償として、修補費用、逸失利益、弁護士費用等を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)瑕疵について

 図面と異なる設備が設置されていたこと、機械換気設備の設置については、行政の運用上、業務用の厨房においては業界団体である一般社団法人日本厨房工業会認定の換気扇を使用するよう指導されており、業務用厨房で設置する機械換気設備は業界団体認定品を使用することが施工水準となっているところ、設置された換気扇が認定品ではないこと、東京都火災予防条例上の義務づけられている設備を設置していなかったこと等が瑕疵とされた。

(2)損害について

 修補費用(現場経費約7%、諸経費約11%含む)、7日間休業(工事前後の準備期間含む)の逸失利益、弁護士費用5%を認めた。

 なお、逸失利益算出の基礎となる金額の算出に際し、開業当初は売上げが安定せず、今後の営業のための経費も必要であることから、開業から1年が経過した以降の売上げや経費に基づいて逸失利益を求めるのが相当であるとして、開業から1年経過後の3か月の平均売上からその間の原価、流動費を控除した額をベースに7日分の金額を算出した。

3 コメント

 瑕疵の判断について、図面や一般的施工水準、法令をもとに判断しており、一般的な判断方法である。また、損害については、修補費用に一定の利率で経費を上乗せるするのが一般的ですが、現場経費も含めて諸経費として計上することが多いようです。

(2022.10.31)

請負業者が請負代金を請求したのに対し、注文主が補修工事の発生による追加工事などによる精神的苦痛について慰謝料請求をした事案(東京地判令和3年9月14日)

1 事案の概要

 本件は、請負会社が注文主に対し、外壁塗装等の請負代金の支払いと求めたところ、注文主が請負業者に対し、請負業者よる杜撰な工事等により精神的苦痛を受けたとして慰謝料請求するとともに、工事の完成が遅滞したとして約定の遅延損害金を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)慰謝料請求について

 請負業者の工事が総じて杜撰なものであり、本来であれば必要のなかった工事が行われることによって、注文主は、生活の本拠である自宅において騒音・振動等の工事に伴う不利益をより長期間(37日間)甘受せざるを得なかったのであるとして、債務不履行又は不法行為に基づき、精神的苦痛に対する賠償をする義務を負うとして10万円の慰謝料を認めた。
 一方、補修工事をめぐる協議等の場面における請負業者側の対応により精神的苦痛を受けたとする注文主の主張については、慰謝料を生じさせるほど高度の違法性があったということはできないとして否定した。

(2)約定遅延損害金について

 工事請負契約における完成の成否は、工事が予定された最後の工程まで一応終了したか否かによって判断すべきであって、予定された最後の工程まで終了しているものの、それが不完全であって修補を要する場合には、工事は完成しており、あとは瑕疵担保責任の問題になるにすぎないと解するのが相当であるとし、本件では、シーリングの一部未施工があるが最後の工程まで終了しているとして、遅延損害金は認めなかった。
 なお、請負業社側が工事遅延により迷惑をかけた旨謝罪しているが、それは、慰謝料を支払う旨の提案であり、完成の成否を左右するものではないとした。

3 コメント

 建築訴訟においては、瑕疵が修補されれば損害は賠償されたとして慰謝料請求を認めない事例が多いですが、本件で慰謝料請求が認められたのは、元々の工事が杜撰であったことや外壁工事で建物の周囲が足場等で覆われていたという事情も加味されたものと考えられます。
 なお、工事完成の有無についての判断は、一般的な判断方法によっています。

(2022.10.30)

築後10年程経過した床が変色したことについて、注文主が瑕疵ないし請負業者の説明義務違反を主張して争った事案(東京地判令和3年9月28日)

1 事案の概要

 建物引き渡しから約10年後に床の絨毯を敷いていた部分が変色したとして、請負業者に対し、瑕疵担保責任ないし変色の可能性について説明しなかった説明義務違反があると主張して争った事案。

2 裁判所の判断

(1)床材に瑕疵があるかについて 

 床材(木材)が紫外線や熱、水分等の外的要因により変化しやすいことは一般的に広く知られた事実であり、床材の絨毯下部の蓄熱も、絨毯に日光が当たること等による熱エネルギーによるもので、建物の引渡しから約10年が経過する過程で一般的な経年変化として生じたものであること、例えば絨毯等をめくって一定期間紫外線を当てれば元に戻る一時的な状態であること、床材がそもそも建築材料として使用できないような品質であるとはいえず瑕疵に当たらないとした。

(2)説明義務違反について

 床材の経年劣化については一般的に知られているところであり、パンフレットにも経年劣化について記載があったから説明義務違反もないとした。

3 コメント

 床材の変色が、日光が当たることによる熱エネルギーにより絨毯下部の蓄熱が生じ、経年劣化として変色したものであるとの床材メーカーの調査結果をもとに判断している。10年経過していることを踏まえると妥当な判断と考えられます。

(2022.10.30)

建築請負契約締結の際の建築業者の広告が虚偽の内容であるとして、注文主が建築業者に対し、請負契約の取消や損害賠償請求をした事案(東京地判令和3年9月15日)

1 事案の概要

 本件は、建築工事請負契約の締結に当たり、建築業者が注文主に対し「地震の揺れによる全・半壊ゼロ。」との記載があるカタログを提示して説明したのに、実際には阪神淡路大震災の際、その設計・施工上の問題に起因する大規模な損壊が生じており、半壊となった例が存在していたから、明確な虚偽を含む広告であったとして、注文主が建築業者に対し、①主位的に、消費者契約法4条1項の不実告知による取消し、同条2項の重要事項の不告知、錯誤無効、詐欺取消しに伴い、請負報酬額全額について不当利得の返還を求め、②予備的に、虚偽の内容を含む説明を行い、過去に建物の居住の安全性に影響を及ぼす事態が生じていた事例について説明する義務を怠ったとして、不法行為ないし債務不履行に基づき損害賠償請求した事案。

2 裁判所の判断

 建築業者は、過去の震災対象地域に存在する同社が設計、施工した建物について、同社基準による全壊・半壊認定となった建物がなかったことから、平成10年頃以降、「地震の揺れによる全・半壊ゼロ」という広告を用いた広告活動を行っていたというもので、広告は十分な裏付けを伴う内容であると認めることができ、かつ、注文主が主張する建築業者施工建物の過去の地震被害による裁判例も建物が半壊したことを認めるものではないから、建築業者の広告が内容虚偽の広告であるとか、これを用いた被告の説明が虚偽説明に当たるということはできないとした。
 なお、前提となる建築業者基準の合理性については、ツーバイフォー工法に対する被害調査の指標として、完全修復が困難な箇所があるかどうかを基準としたことは、住宅性能評価制度における耐震等級とも共通する考え方で合理性があるとした。

3 コメント

 本件は、建築された建物に何ら不具合は生じていない中、注文主が請負契約の取消等を主張して争ったことから、建築業者の広告内容の合理性についての判断が中心となりました。ポイントとしては、「全壊」「半壊」の定義、建築業者の施工物件で過去に半壊となった事例があるかでした。前者については、行政、業界団体において統一的な認定基準はない中で、建築業者の基準が公的な評価制度とも共通する考え方であるとして合理性を認めました。後者については、注文主主張の裁判例が半壊を認定したものではないから、その主張を排斥しています。

 本件では、虚偽広告に当たらないとされましたが、建築業者のパンフレットやチラシの内容めぐって争いとなることは少なくなく、注意が必要です。

(2022.10.30)

管理規約に定めのあるコミュニティ費の支払い義務の有無が争われた事案(東京地判令和3年9月9日)

1 事案の概要

 本件は,区分所有者の一人が,マンションの管理組合に対し,マンションの管理規約に定めのあるコミュニティ費(マンション内パーティーの費用として使用される)について、コミュニティ脱退届を提出して契約を解除しているため支払義務がないと主張して,契約解除日以降のコミュニティ費に関する債務が存在しないことの確認を求めるとともに,名誉毀損等の不法行為に基づく損害賠償請求等を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)コミュニティ費の支払義務(管理組合の徴収権限)の有無について

 区分所有法30条1項が、管理組合は,建物,その敷地及び付属施設の管理又は使用に関する事項について,規約で定めることが可能であると定めており、コミュニティ費については管理規約に規定されていることから、コミュニティ費が,建物,その敷地及び付属施設の管理又は使用に関する事項であるかの検討について検討する必要があるとした。
 そして、コミュニティ費は主にパーティーに支出されており、パーティーは居住者間のコミュニティ形成に寄与し,マンションの治安を維持,ひいてはマンションの資産価値低下を防ぐ効果を持つものとして実施されていると理事会が評価しているところ、パーティーは、自治会や町内会とは異なり、マンションの区分所有者,居住者又はその家族のみが参加可能であり、上記理事会の評価も合理的であるとして、コミュニティ費は管理規約に定めうるものであり(区分所有法30条1項に反しない)、管理組合がコミュニティ費を徴収することは、区分所有法3条に反しないとした。

(2)総会資料の記載内容や本訴訟の期日等の区分所有者への告知が不法行為となるか

 総会資料に記載された内容は、該当する区分所有者の名等を記載せずに,管理組合の見解を示したものに過ぎず、直ちに当該区分所有者の社会的評価が下がるものとはいえず、名誉棄損には当たらないとした。
 訴訟の期日を告知したことについては、マンションの区分所有者らが,管理組合の問題についての議論を公開の法廷で傍聴する意義は認められ,仮に訴訟の弁論を傍聴した者において,当該区分所有者の氏名が把握できたとしても,プライバシーが違法に侵害されたとはいえないとした。

3 コメント

 マンション管理組合は、区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うために設置される団体であることから(区分所有法3条、30条1項)、これと関係のない自治会費や町内会費の徴収等について管理規約に定め、これを徴収することはできません(東京簡判平成19年8月7日)。
 本事案は、コミュニティ費が区分所有者間の懇親パーティーに支出されているが、その懇親パーティーがマンションの治安維持に役立ち、マンションの資産価値の低下を防ぐという効果があると評価できることから、管理に関するものであると評価して区分所有法3条、30条1項に反しないと判断しています。
 なお、東京地判令和3年9月29日は、地方自治法260条の2第1項の地縁による団体の認可を受けた団体に対する支払分(会費)について、管理規約に定めて区分所有者から徴収することについて適法としました。これは、同団体が集会室等を区分所有して管理し、総会用の会議場として無償で貸し出したり、区分所有者に安価に貸し出したりするなどしていたことから、町会費や自治会費とは異なり、区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理、使用に関するものと判断したものと考えられます。
 本事案のような区分所有者と管理組合の紛争では、総会資料の記載事項やマンション内掲示板での告知等に関し、区分所有者側から名誉棄損やプライバシー侵害の主張がされることがあります。総会で決議をとるためには事実関係の説明が必要ですので、総会資料での事実説明が違法と評価される可能性は低いですが、その内容によっては違法と評価される可能性も否定できませんので、記載内容が個人情報については慎重に行うべきと考えます。

(2022.10.30)

管理規約に違反して民泊事業を行っていた会社が、これを阻止しようとした管理組合等に対し名誉棄損による損害賠償請求等を求めた事案(東京地判令和3年9月29日)

1 事案の概要

 本件は、分譲リゾートマンションの区分所有者であり、同マンションにおいて住宅宿泊事業又は住宅宿泊管理業を営む会社及び代表者がマンションの管理組合及びその代表理事に対し、会社が営む民泊事業が違法である旨を記載した書面を代表理事らがマンションの区分所有者に送付し、また、会社が極めて悪質な民泊事業者である旨を記載した要望書を代表理事らが観光庁及び新潟県に送付したことが名誉棄損に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償請求等を行った事案です。

2 裁判所の判断

(1)区分所有者への書面の送付について

 裁判所は、名誉棄損に関する最高裁の判断基準(下記参照)に従い、次のとおり判断しました。
 まず、マンションの区分所有者らに対して書面を送付した書面の内容は、会社の行為が違法であるとの法的見解であり、ある事実に対する意見ないし論評に当たるとし、管理規約に違反する民泊行為の差止等の訴訟提起に関する総会決議の資料として送付したのであるから、管理組合ひいてはマンションの関係者の利害に影響する公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的は専ら公益を図ることにあったとし、各種証拠から、会社側が行っていた民泊行為について真実(少なくとも信じるについて相当性がある)であるとし、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものではないから不法行為を構成しないと判断しました。

(2)観光庁などへの要望書の提出について

 上記同様に最高裁の判断基準に基づいて、観光庁等への要望書に記載した「極めて悪質な民泊事業者」との記載については、具体的事実を前提とした意見の表明ないし論評であるが、要望書は観光庁等へ提出されたものであり、他人に伝播する可能性があったと認めるに足りる証拠はないから、会社の社会的評価を低下させる事実又は意見を流布したとはいえないとして、不法行為を構成しないと判断しました。なお、区分所有者の書面送付の場合と同様に具体的事実認定の下、公共性・公益性、真実性等も認めています。

3 コメント

 区分所有者の管理規約違反行為に対処するための総会開催に際し、招集通知に違反行為の具体的事実やその法的評価を記載することについて公共性・公益性が認められるものと考えられますが、本件のように名誉棄損に当たるとして争われることがありますので、記載内容は慎重に検討する必要があります。なお、マンションの掲示板の記載内容について名誉棄損が争われる場合もあります。

※名誉棄損に関する最高裁の判断
 ある事実を基礎とした意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったといえ、意見ないし論評の前提としている事実の重要部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠き(最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁参照)、仮に意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者においてそれを真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意または過失が否定される(最高裁平成6年(オ)第978号平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。

(2022.10.27)

戸建て住宅の新築請負契約において、請負代金の合意の有無、瑕疵の有無(コストダウンによる施工中止又は施工内容の変更の有無等)が争われた事案(東京地判令和2年7月17日)

1 事案の概要

 戸建て住宅の新築工事に関し、注文主が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、請負業者が追加工事及び減工事による未払請負代金支払請求を行った事案です。

 主たる争点としては、①請負代金の合意の有無、②見積書に記載の未施工工事が、未施工の瑕疵にあたるかコストダウンのために中止したものか、その他工事の施工内容が瑕疵にあたるか、③追加変更工事の合意があったかです。

2 裁判所の判断

(1)請負代金の合意について

 当初見積額について施主が異議述べている事実があることから、当初見積額での合意を否定した。一方で、施主が建物の現状を確認して追加の請負代金を支払ったこと、支払時に後日の精算について言及していなかったこと、その後も訴訟まで特に返金等の精算を求めなかったことなどから、少なくとも注文主が支払った金額の限度で合意は成立しているとした。

(2)瑕疵について

 当初見積額から請負代金を減額していることから、当初見積書に記載された内容のすべてが合意されているものではなく、コストダウンにより中止されたものや施工内容が変更されたものがあるとし、見積書と異なる部分が通常のコストダウンとして合理的(注文主が特に設置をこだわっていたとか、必須ではないもの)であるとして瑕疵に当たらないとした。
 その他複数の瑕疵については、一般的施工水準に達しているか、機能上問題ないかという観点から瑕疵を判断している。具体的には、換気扇の設置位置が設計図と若干異なっている点について、換気性能として問題ないことから瑕疵ではないとした。一方、車庫内の木製棚が給湯器の側方に近接して設置されて防火性能を満たしていない点について、注文主の意向を尊重したとの請負業者の主張を施主が防火性能まで理解していたとは言えないとして瑕疵とした。

3 コメント

 請負契約の内容に争いがある場合、見積書や設計図書の内容、交渉経緯(異議の有無等)、請負代金額などを参考に判断されます。また、瑕疵の有無の判断については、一般的施工基準に達しているか否かが一つの基準となります。機能重視の設備等については、設計図面と多少位置が異なるなどしても、機能上問題なければ瑕疵とならないと判断される傾向にあります。一方、施主の要望通りに施工しても、それが機能上、法律上問題となるにもかかわらず、請負業者が注文主に対して問題を指摘せずにそのまま施工したような場合は瑕疵と判断される傾向にあります。

(2022.10.27)

管理費滞納者の相続財産管理人が、滞納管理費請求にかかる弁護士費用を滞納者から徴収可能とする規約改正の総会決議は相続財産管理人の同意がなく無効であると主張して争った事案(東京地判令和3年11月16日)

1 事案の概要

 本件は、マンション管理組合が、同マンションの区分所有者(相続財産)が管理費等の支払を滞納していたところ、同マンションの改正後の管理規約上、「違約金としての弁護士費用」を請求することができると規定されており、管理組合が相続財産管理人に対し、上記管理規約の規定に基づき、「違約金としての弁護士費用」及び遅延損害金の支払を求めた事案。

2 裁判所の判断

1)規約改正のための総会の招集通知が相続財産管理人に通知されなかった手続的瑕疵について

 組合員および議決権の出席状況並びに出席者が全会一致で規約改正を承認されたことを踏まえ、同決議に反映されなかった議決権等の割合が僅少であり、その瑕疵を理由として決議をやり直させる実益に乏しいとして、招集通知の欠缺は直ちに集会決議の無効をもたらすものではないとした。

(2)規約改正が区分所有法31条1項後段の一部の承諾が必要かについて

 規約改正が、一部の組合員を対象とするものであり、かつ、その内容からして、対象となった個別の組合員に過酷な義務を課するものであるときは、建物の区分所有等に関する法律31条1項後段の「一部の区分所有者」の「承諾」が必要となるものと解されるとした上で、①規約改正後の管理費等の滞納に係る弁護士費用を違約金として徴収することは、全組合員(区分所有者)を対象とするものであるから、相続財産管理人の「承諾」がないことは集会決議の無効をもたらすものではないしたが、②規約改正前に既に生じていた管理費等の滞納に係る弁護士費用を違約金として徴収することは、形式的には全組合員(区分所有者)を対象とするかのようであっても、実質的には、既に滞納をしていた原告ら一部の組合員(区分所有者)を対象とするものであり、かつ、債務不履行に対する制裁を遡及的に重くするものであるから、対象となった個別組合員に過酷な義務を課するものといえるとして、その「承諾」はないのであるから、規約改正前に既に生じていた管理費等の滞納に係る弁護士費用を違約金として徴収するとの決議部分は無効であるとした。

3 コメント

 管理規約の変更は、区分所有者及び議決権の4分の3以上の集会の決議があれば可能ですが、規約の変更により一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときは、その者の承諾を得なければならないとされています(区分所有法31条1項)。そこで、管理規約を変更して新たに制限を設けようとする場合、制限を受ける区分所有者が、「一部の区分所有者の権利に影響を及ぼす」場合に当たることから当該区分所有者の承諾のない管理規約変更決議は無効である等と主張して管理組合と争いとなることがあります。ここでいう「一部の区分所有」とは、まさに区分所有者の一部のことをいい、区分所有者全体に一律に影響を及ぶ場合は含みません。また、「特別の影響」とは、規約変更の必要性・合理性と、これにより影響を受ける一部の区分所有者の不利益とを比較衡量し、一部の区分所有者に受忍限度を超えるような不利益が生じると認められる場合解されています。

(2022.10.24)