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管理規約に違反して民泊事業を行っていた会社が、これを阻止しようとした管理組合等に対し名誉棄損による損害賠償請求等を求めた事案(東京地判令和3年9月29日)

1 事案の概要

 本件は、分譲リゾートマンションの区分所有者であり、同マンションにおいて住宅宿泊事業又は住宅宿泊管理業を営む会社及び代表者がマンションの管理組合及びその代表理事に対し、会社が営む民泊事業が違法である旨を記載した書面を代表理事らがマンションの区分所有者に送付し、また、会社が極めて悪質な民泊事業者である旨を記載した要望書を代表理事らが観光庁及び新潟県に送付したことが名誉棄損に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償請求等を行った事案です。

2 裁判所の判断

(1)区分所有者への書面の送付について

 裁判所は、名誉棄損に関する最高裁の判断基準(下記参照)に従い、次のとおり判断しました。
 まず、マンションの区分所有者らに対して書面を送付した書面の内容は、会社の行為が違法であるとの法的見解であり、ある事実に対する意見ないし論評に当たるとし、管理規約に違反する民泊行為の差止等の訴訟提起に関する総会決議の資料として送付したのであるから、管理組合ひいてはマンションの関係者の利害に影響する公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的は専ら公益を図ることにあったとし、各種証拠から、会社側が行っていた民泊行為について真実(少なくとも信じるについて相当性がある)であるとし、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものではないから不法行為を構成しないと判断しました。

(2)観光庁などへの要望書の提出について

 上記同様に最高裁の判断基準に基づいて、観光庁等への要望書に記載した「極めて悪質な民泊事業者」との記載については、具体的事実を前提とした意見の表明ないし論評であるが、要望書は観光庁等へ提出されたものであり、他人に伝播する可能性があったと認めるに足りる証拠はないから、会社の社会的評価を低下させる事実又は意見を流布したとはいえないとして、不法行為を構成しないと判断しました。なお、区分所有者の書面送付の場合と同様に具体的事実認定の下、公共性・公益性、真実性等も認めています。

3 コメント

 区分所有者の管理規約違反行為に対処するための総会開催に際し、招集通知に違反行為の具体的事実やその法的評価を記載することについて公共性・公益性が認められるものと考えられますが、本件のように名誉棄損に当たるとして争われることがありますので、記載内容は慎重に検討する必要があります。なお、マンションの掲示板の記載内容について名誉棄損が争われる場合もあります。

※名誉棄損に関する最高裁の判断
 ある事実を基礎とした意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったといえ、意見ないし論評の前提としている事実の重要部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠き(最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁参照)、仮に意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者においてそれを真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意または過失が否定される(最高裁平成6年(オ)第978号平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。

(2022.10.27)