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1 事案の概要
建物所有者が、隣地建物所有者、解体工事施工者、新築工事施工者に対し、隣地のビル建設工事に伴う土工事(山留工事等)により、外壁スレートが割れ、建物全体が傾き、室内の壁紙に亀裂が入り、隙間が開いたなどとして、共同不法行為に基づく損害金の支払を求めた事案。
主たる争点は①解体工事での外壁損傷の発生、②山留工事による建物傾斜の発生、③共同不法行為責任である。
2 裁判所の判断
(1)解体工事による外壁の損傷について
解体前の写真がなく、解体工事中の写真からは、解体前に外壁のスレートが割れていなかった、あるいは存在していたと認定できず、建物自体、昭和41年に新築され、本件解体工事の際には築49年であったことなどから、経年等により割れるに至ったものである可能性を否定することができないなどとして、解体業者の責任を否定した。
(2)山留工事による建物傾斜の発生について
日本建築学会「建築工事標準仕様書・同解説」には、横矢板の設置に際しては、横矢板の裏側に裏込め材料を十分に充填した後、親杭と横矢板との間にくさびを打ち込んで裏込め材の締固めと安定を図る旨の記載がある。
本件建物及び隣地新築ビルに近接するX1地点の地盤のN値は0ないし1程度であること、第1期山留工事では、隣地境界線から20ないし25cmほど離れた地点を少なくとも1.6m程度掘削し、H鋼の大きさを100mm×100mmとする親杭横矢板工法を採用したこと、横矢板の設置後に裏込め土の充填や親杭間にくさびを挿入するなどの措置は講じなかったことが認められるところ、これらの事実関係に加えて、専門家調停員本件意見書における意見も踏まえれば、第1期山留工事は、本件建物全体に影響を及ぼすとまではいえないが、山留壁の変位を許容し、隣接地盤の緩みを生じさせ、本件建物の基礎の変位を招く可能性のあるものであったと認められる。
そして、第2期山留工事では、山留壁より隣地境界線側を掘削しているのに、掘削する前又は掘削に合わせて掘削箇所を合板で押さえる措置を講じていないことが認められるところ、専門家調停委員の意見も踏まえると、第2期山留工事は、本件建物の全体に影響を及ぼすとまではいえないものの、本件建物の東側の基礎直下の土が側方からの支持力を低下させ、又は側方から応力を開放して本件建物の基礎の沈下を生じさせる可能性のあるものであったと認められる。
上記認定したところに加えて、専門家調停委員の意見を総合すれば、本件山留工事によって、少なくとも本件建物の東側基礎部分が本件山留工事によって沈下した可能性があると認められる。そして、上記認定事実によれば、本件建物の床下の畳部を支える大引きや床板と、土台、柱、壁は縁が切れていたこと、本件山留工事後の平成28年2月13日の調査時点で本件隙間があることが確認されていたこと、本件新築工事前の平成27年3月に本件建物には賃借に先立ち現状確認がされ、開店準備のための畳交換などが行われていたことが認められる。そして、上記の賃借と開店に至るまでの経緯の後において本件隙間が残っているとは通常考え難いから、本件山留工事の約3ないし4か月前には本件隙間は存在しなかったものと推認される。以上に加えて、専門家調停委員の意見も踏まえると、上記の本件山留工事によって本件建物の東側基礎が沈下する可能性と、本件山留工事の約3ないし4か月以後に本件建物の1階東側に本件隙間が発生したこととは整合するものといえる。
これまでに説示したところを総合すると、本件においては、経験則に照らし、本件山留工事が本件隙間の発生を招来したことに関しては、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる程度に立証されているものといいうるから、本件山留工事と本件隙間の発生との間には因果関係があると認められる。
(3)共同不法行為の成立について
建物所有者は、一級建築士の資格を持ち、隣地建物の設計監理者であるというだけでなく、所有者、発注者であるという地位を併せ持ち、かつ、建築の専門知識をもって現場において、常時、直接本件山留工事を確認していたなど具体的な事実関係の下では、隣地所有者としては、施工業者の本件山留工事の施工によって周辺地盤に影響を与えることのないように注意すべき義務を負い、第1期山留工事に接した際には、自立式ではなく切梁式の土留め工法や、より大きなH鋼の使用を検討し、施工業者に是正を指示すべき義務を負っていたというべきである。それにもかかわらず、これを怠り、施工業者の施工を許容していたと評価せざるを得ないから、上記注意義務に違反したと認めるほかない。
したがって、隣地所有者には、過失があり、施工業者による本件山留工事の施工と隣地所有者による注意義務違反とは客観的に関連共同するから、共同不法行為(民法719条前段)に基づき、連帯して、本件山留工事によって発生した前記隙間等につき損害を賠償すべき義務を負う。
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本件のように、近隣での工事により建物が傾いたり、壁に亀裂が入ったりするなどの被害が生じる事例があります。その場合、工事前の建物状況を写真等で保存しておくと、工事前後の対比ができるので、立証がしやすくなります。施工会社が事前に施工前の状況について写真撮影を求めてくる場合もありますが、施工会社が求めてこない場合は、施工業者に依頼したりることも、自ら写真を撮影しておくことも必要です。
本件は、隣地所有者の責任も認められましたが、これは、隣地所有者が設計監理者であり、現場で指示を出していたという特殊事情により認められたものと考えられます。
(2022.12.4)
1 事案の概要
本件は,鉄筋コンクリート造,地下1階,地上4階建ての建物の建築の依頼をした施主が、請負業者に対し,サッシ付近の錆やガラスのひび割れなどが生じたことが施工上の瑕疵であると主張して,瑕疵担保責任に基づき損害賠償を請求した事案。主たる争点は、瑕疵の有無と損害額。
2 裁判所の判断
(1)サッシの錆止めの瑕疵の有無について
窓枠がスチールサッシで錆が発生しやすいことから二液混合のウレタン防水処理が必要であるが、二液混合のウレタン防水は混合が不十分であると効果が十分でないことがあること、引き渡しから3カ月で錆が発生していることなどから、防水処理等の施工に瑕疵があるとした。
(2)ガラスの施工の瑕疵について
窓ガラスの割れについては、ペアガラスの内側に破片が落ちているから、ガラスをサッシにはめ込む際に割れたものと推認し、被告の地震による割れの抗弁を排斥して施工の瑕疵を認めた。
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本件では、補修方法も争点となり、請負業が最も安価な方法で補修がなされるべきと主張しましたが、被告が主張するより安価で合理的な方法が具体的ではないとして、施主側の主張する補修方法を採用しました。なお、補修方法は、より安価方法がある場合は、その方法による補修がとられるべきであるとするのが一般的です。
(2022.12.3)
1 事案の概要
本件は、旅館を運営する会社から工事を依頼された業者が、旅館に附属する露天風呂の造設工事、旅館建物内及びその周辺の改修工事並びにその追加工事を請け負い、各工事を完成させて引き渡したにもかかわらず、請負代金全額を支払わないと主張して、旅館運営会社に対し、工事代金及び遅延損害金を請求した事案。
主たる争点は、工事に建築基準法違反があり代金請求が信義則に反するか、
2 裁判所の判断
(1)建築基準法違反があった場合に代金請求が可能かについて
特定の建物の建築等についての請負契約に建築基準法違反の瑕疵があるからといって、直ちに当該契約の効力を否定することはできないが、当該契約が建築基準法に違反する程度(軽重)、内容、その契約締結に至る当事者の関与の形態(主体的か従属的か)、その契約に従った行為の悪質性、違法性の認識の有無(故意か過失か)などの事情を総合し、強い違法性を帯びると認められる場合には、当該契約は強行法規違反ないし公序良俗違反として私法上も無効とされるべきである(東京高判昭和53年10月12日、同平成22年8月30日)。
本件では、本件契約において建築が予定されていた露天風呂は、建築基準法6条1項4号所定の建築物に該当し、その建築には、当該建築につき同条による建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならず、工事完了時には同法7条により当該建築物が法令に適合するかどうかについて検査を受けなければならないが、本件露天風呂工事は、事前に建築確認を受けずに施工され、工事完成後の完了検査も経ていないもので、上記建築基準法の規定に明確に違反しており、旅館に附属する露天風呂として不特定多数の公衆の利用が予定されていたにもかかわらず、建築基準法所定の安全基準に合致していることが全く担保されていなかったことになるから、違反の程度は重いというべきである。
そして、本件では双方が、建築基準法に違反する違法な行為であることを認識しつつ上記行為を行ったことは明らかであるが、原告が、被告に対し、違法行為を求められても従わざるを得ないような従属的な立場にあったとまでは認められない上、原告は、建設業法3条1項の許可を受けていないにもかかわらず、本件契約を締結して本件露天風呂工事を施工したもので、その行為は、建築基準法のみならず建設業法にも違反しており、悪質であると言わざるをえない。
これらの事情を考慮すると、本件露天風呂工事の施工自体が建築基準法の規定に違反し、強い違法性を帯びるものであるといえるから、本件契約は、強行法規ないし公序良俗に違反するものとしてその効力を否定されるべきものである(被告は上記露天風呂を取り壊す予定であること、原告は本件契約に基づく請負代金のうち1100万円を既に受領しており、同金員は不法原因給付として被告への返還義務はないと解されることから、本件契約の効力を否定することによって、当事者の一方を不当に利する又は害することにもならないというべきである。)。したがって、原告の被告に対する本件露天風呂工事に係る残代金請求には理由がない。
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施主から違法建築を依頼され、請負業者が止む無くこれを受け、違法建築が発覚した後に施主がこれを否定して争いになる場合があります。本件も同様の事案ですが、裁判所は、最判を引用して、建築基準法違反が直ちに私法上契約が無効となるものではないとした上で、本件では、請負業者が建設業法の許可を得ておらず、工事対象物件が不特定多数の人が訪れる旅館の風呂という事情もあることなどから、建築確認申請が出されず完了検査設けていないのは重大な違法があるとし、請負業者側も違法建築を受け入れざるを得ないような弱者ではないから工事を行ったことは悪質であり、契約自体が公序良俗違反で無効であるとし、請負代金の残代金の請求を否定した。なお、施主側も違法を認識していたことから不法原因給付として既払金の返還請求はできません。
(2022.12.1)
1 事案の概要
本件は、不動産業者から中古建物を購入した買主が、当該建物の店舗部分の柱及び梁が腐食しており、また、当該店舗部分に設置された化粧洗面台、便所及び手洗所から水が出ない状況であったことから、選択的に、①本件各瑕疵は、民法570条の「隠れた瑕疵」に当たるとして瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、②売主は、各瑕疵の存在を当然知り得る立場にあり、原告に対し、これを告知すべき義務があったにもかかわらず、故意又は過失によりこれを怠った(告知義務違反)として債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、売主に対し、柱等瑕疵に係る改修工事費用、水道瑕疵に係る復旧工事費用、各瑕疵への対応のために要した交通費、各瑕疵への対応により発生した逸失利益等の支払いを求めた事案。
2 裁判所の判断
(1)瑕疵担保責任の有無について
民法570条の「瑕疵」とは、当該契約の目的物の通常有すべき品質、性能を欠く場合をいうところ、本件売買契約のような中古建物の売買では、売買契約当時、一定程度の損傷が存し、その購入後、一定の修理等を要することを見込んで購入代金を決定するものであるから、当該建物の築年数や構造等に照らして通常有すべき品質、性能を基準として、かかる程度を超える損傷がある場合に「瑕疵」があるものと認めるのが相当である。
本件では、築24年の木造住宅で、経年劣化等により一定程度の損傷が存在することは当然といえるところ、売買契約には特約として、建物には経年劣化、機能低下、破損、ヒビ、汚れ等が見られるものの、買主はこれを容認し、売主に対して異議を述べない旨定められていることからすれば、経年劣化等により一定程度の損傷が存在することは、売買契約締結の前提としていたものと認められる。そして、売買契約当時においても一定程度の柱等の腐食があった可能性は否定できないが、その柱等の腐食の程度が建物の築年数や構造等に照らして通常有すべき品質、性能を基準として、かかる程度を超える損傷であったとまでは認められない。よって、柱等の瑕疵は民法570条の「隠れた瑕疵」に当たらない。
また、水道瑕疵の原因は、どの時点の、誰の行為により、洗面台等に水を供給していた配管が取り外されるなどしたのかを特定することはできないことから、そもそも水道瑕疵が売買契約の締結時点において存在していたか否かも不明であるといわざるを得ないのであって、水道瑕疵は民法570条の「隠れた瑕疵」に当たらない。
(2)説明義務違反について
契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないが、不法行為による賠償責任を負うことがある(最高裁平成23年4月22日第二小法廷判決・民集65巻3号1405ページ参照)。
本件では、瑕疵担保責任の有無で検討したとおり、柱等の腐食の程度が建物の築年数や構造等に照らして通常有すべき品質、性能を基準として、かかる程度を超える損傷であったとまでは認められず、建物に経年劣化等により一定程度の損傷が存在することは、売買契約の締結に先立ち、買主に対して説明済みであると認められるから、上記信義則上の説明義務は果たしているものと認めるのが相当である。また、水道瑕疵に関しても、そもそも水道瑕疵が本件売買契約の締結時点において存在していたか否かが不明である以上、売買契約の締結に先立ち、売主が水道瑕疵に係る告知義務を負っていたとはいえない。
よって、売主に説明義務違反は認められない。
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中古建物について通常有すべき性質とは、その築年数や構造により異なると考えられますが、本件では、築24年の木造建物であり、売買契約に経年劣化による損傷等については買主が了承していたという事情もあることなどから、隠れた瑕疵に当たらず、説明義務違反もないとしています。売買金額も当初金額から減額して契約が成立し、建物価格も300万円程度であったことも判断に影響を与えているかもしれません。
(2022.11.27)
1 事案の概要
本件は、食品の卸業をする会社が土地建物の賃貸、分譲等を業する会社から土地を購入したところ、当該土地には売買締結時に明らかでなかった土壌汚染及び埋設物があったと主張して、売主の瑕疵担保責任(民法570条)、又は債務不履行(売買契約上の表明保証違反及び付随的義務である説明義務違反)に基づき、損害賠償請求した事案。
2 裁判所の判断
(1)売主が瑕疵担保責任を負うか
ア 地中埋設物に関する瑕疵について
買主は、本件土地が長年にわたってJが所有し、一時期、J用地として使用された後、20年以上も空地又は鉄製の管材、塩ビパイプ、ケーブル長尺物等の資材置場として利用されてきた土地である旨の記載がある本件地歴報告書を受領している上、遅くとも昭和63年ころから、本件土地の隣接地で営業をしていたのであるから、上記のような本件土地の利用状況や、本件土地が、Jの送電のための鉄塔、鋼材の売買等を目的とするH株式会社の工場及び建設機械の修理・製作・販売を目的とするI株式会社の工場等に隣接していることをも十分認識していたと考えられる。これに加えて、本件特約5項において、少なくとも残置物として「⑤旧鉄塔基礎⑥水道埋設管及びガス埋設管⑦木柵⑨旧建物(寮、資材置場ですが登記記録は存在しておりません。)基礎等」が確認されていた旨の記載がされていたことからすれば、当事者双方は、本件売買契約締結時において、本件土地は工場用地として利用されていた地区内にある土地であって、これまでの利用状況等からして、従前、保管されていた資材の一部や存在した建物の基礎等、何らかの埋設物が地中に残存していると共に、それらによる何らかの土壌への影響が残っている可能性があるものと認識・想定していたものと考えられる。
そうすると、本件土地に、コンクリート杭、コンクリート製の側溝、ケーブル、木くず、ゴミ等の本件埋設物が埋まっていたことは、契約当事者間の合意に基づき予定されていた品質又は性能を欠き、隠れたる瑕疵に該当するものとは認められない。
イ 土壌汚染について
買主は、売主から本件売買契約の際に、本件土地から第1種特定有害物質(揮発性有機化合物)は検出されず、第2種特定有害物質(重金属等)及び第3種特定有害物質(PCB)は全て基準に適合しており、土壌試料中に油臭・油膜は確認されなかった旨の記載がある本件調査報告書を受領しているから(前記1(1)エ、カ)、当事者双方は、本件売買契約締結時において、本件土地に深刻な土壌汚染はないものと認識していたものと考えられる。
そして、鑑定の結果によれば、少なくとも、本件試し掘りがされた部分については油分も確認されていないことからすれば、これを越えて、本件土地の広範囲の土壌中に多量の油分が広がり、油によって土壌が汚染されているとは認められない。
また、中央環境審議会土壌農薬部会土壌汚染技術基準等専門委員会が平成18年3月に発出した「油汚染対策ガイドライン-鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者等による対応の考え方-」によれば、油汚染問題に対する対応の基本は、地表や井戸水等の油臭や油膜という、人が感覚的に把握できる不快感や違和感が感じられなくなるようにすることとされており、一般の工場・事業場の敷地などにおいては、舗装などによる地表の油臭の遮断と油膜の遮蔽が基本とされているところ、本件土地のうち、油分が認められた全ての地点において、地表では油膜は認められなかったから、油膜を遮蔽する対策が必要であるとはいえない。
油臭についても、本件ガイドラインによる0~5までの6段階のうち、段階2の油臭が認められたのは、地点アの深度1メートル、Eの深度1.5メートルの2地点のみであったものであり、その余はいずれも段階1であったところ、段階1の油臭については、通常、何らかの対策が必要であるとは認められない。段階2についても、必ずしも対策が必要であるとはいえないところ、原告は、本件土地を倉庫の敷地として使用するため、当初から、本件土地に対する地盤改良工事や地表の舗装工事を予定していたというべきところ、油臭についても、設置費用が約13万円程度の油防止シートを倉庫の基礎の下に設置するという簡易な対策を施すことによって、現在、特段の問題もなく本件土地上の倉庫で小麦粉問屋業を営んでいることからすれば、土地を裸地のまま利用する際に検討されるべき土壌の掘削除去や油含有土壌中の油分を分解あるいは抽出する浄化などの対策が必要であるとまでは認められない。そうすると、本件土地の南東部分のうち、隣接地との境界付近部分の深さ1~1.5メートル付近の土壌には油分が含まれていたことは、契約当事者間の合意に基づき予定されていた品質又は性能を欠き、隠れたる瑕疵に該当するものとは未だ認められない。
(2)売主に表明保証義務違反の有無について
契約書の特約には、現在確認されている残置物として、旧鉄塔基礎、水道埋設管及びガス埋設管、木柵、旧建物(寮、資材置場ですが登記記録は存在しておりません。)基礎等については不明との記載がされているのであるから、むしろ、本件土地には埋設物が存在する可能性があることが指摘されているというべきであって、被告が、本件埋設物が存在しないことを表明し保証したとは認められない。
(3)売主の説明義務違反の有無について
売主は、買主に対し、埋設物については、特約5項において、それが存在する可能性について言及した上で、特約6項において、その処理の分担を定めているものである。また、土壌汚染については、被告は、原告に対し、本件売買契約時に本件地歴報告書及び本件調査報告書を交付しているところ、本件調査報告書による調査が、本件土地を売買するに当たって、通常行うべき程度に欠けるほど不十分なものであったと認めるに足りる証拠はない。よって、売主に本件売買契約の付随的義務である説明義務違反があったとは認められない。
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裁判所は、隠れた瑕疵の有無については、買主も当該土地の利用状況等についても認識しており、一定の地下埋蔵物があるであろうことは認識することができ、契約書にも一定の埋蔵物がある可能性についても言及しており、汚染についても客観的調査結果を前提に油汚染対策ガイドラインを参照しつつ、何等かの対策が必要な状態ではないとし、結果として隠れた瑕疵に当たらないとしました。
また、説明義務違反については、売主が地歴報告書と土壌汚染調査報告書を提出していることから説明義務違反はないとしました。
民法の改正により、瑕疵担保責任は契約不適合責任と変更になりましたが、結局のところ、契約に至る経緯その他から契約時の当事者の合理的意思を推認して合意内容を確定し、契約不適合があったか否かを破断することになります。
(2022.11.26)
1 裁判所の判断
請負契約における注文者の請負代金支払義務と請負人の目的物引渡義務とは対価的牽連関係に立つものであるところ、瑕疵ある目的物の引渡しを受けた注文者が請負人に対して取得する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は、上記の法律関係を前提とするものであって、実質的、経済的には、請負代金を減額し、請負契約の当事者が相互に負う義務につきその間に等価関係をもたらす機能を有するものである。しかも、請負人の注文者に対する請負代金債権と注文者の請負人に対する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は、同一の原因関係に基づく金銭債権である。このような関係に着目すると、上記両債権は、同時履行の関係にあるとはいえ、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとはいえず、両債権の間で相殺を認めても、相手方に不利益を与えることはなく、むしろ、相殺による清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係を簡明にするものであるといえる(最高裁昭和52年(オ)第1306号、第1307号同53年9月21日第一小法廷判決・裁判集民事125号85頁参照)。
上記のような請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権の関係に鑑みると、上記両債権の一方を本訴請求債権とし、他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属している場合に、本訴原告から、反訴において、上記本訴請求債権を自働債権とし、上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁が主張されたときは、上記相殺による清算的調整を図るべき要請が強いものといえる。それにもかかわらず、これらの本訴と反訴の弁論を分離すると、上記本訴請求債権の存否等に係る判断に矛盾抵触が生ずるおそれがあり、また、審理の重複によって訴訟上の不経済が生ずるため、このようなときには、両者の弁論を分離することは許されないというべきである。
そして、本訴及び反訴が併合して審理判断される限り、上記相殺の抗弁について判断をしても、上記のおそれ等はないのであるから、上記相殺の抗弁を主張することは、重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するものとはいえない。
したがって、請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし、他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に、本訴原告が、反訴において、上記本訴請求債権を自働債権とし、上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許されると解するのが相当である。
(2022.11.23)
1 事案の概要
本件は、請負業者が、注文主に対し、建物の大規模修繕工事請負契約に基づき残代金1560万円及びこれに対する支払済みまで商法所定年6%の割合による遅延損害金を請求する事案である。
2 裁判所の判断
(1)工事の完成について
工事の完成とは、工事が予定された最後の工程まで一応終了したことを指すと解され、最後の工程まで一応終了している場合は、何らかの瑕疵修補が必要であったとしても、それは工事が完成したが瑕疵がある場合に当たるというべきであるとして、本件については、工事の予定された最後の工程まで終了して引渡しをしたと認められるとした。
(2)各瑕疵について
スロープの縁と道路の角度等は、いずれもよほど注意して見なければ分からない程度のわずかなものであって、本件建物の美観やスロープとしての性能を損なうようなものではないことが明らかであるから瑕疵とはいえない。
駐輪場は、居住者が自転車を置くためのスペースであるから、自転車を置くことに支障を来すような不陸があってはならないが、屋内のロビーや廊下、居室の床面とは異なり、鏡のような平坦さにより構成される美観を要求される場所ではなく、駐輪場にはわずかな凹みがあるだけであり瑕疵とはいえない。
バルコニーも、個々の居住空間に属するという点においては駐輪場よりも美観を要求されるレベルは高いといえるが、基本的に、屋外スペースとして洗濯物干しや植木鉢を置く等の用途に供される場所であり、同様に鏡のような平坦さにより構成される美観を要求される場所ではなく、バルコニーにはわずかな凹みがあるだけであり瑕疵とはいえない。
屋上パラペットに塗りむらがあとしても、屋上パラペットは、住民が通常目にすることはなく、美観を要求される部分でもないといえるから、塗りむらが瑕疵とはいえない。
なお、本件建物が通常よりも高度の美観を要求されるデザイナーズマンションであることを売り物にしている物件であるとしても同様である。
(3)同時履行の抗弁権について
瑕疵が極めて軽微なものであり、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義則に反する(最高裁判所第三小法廷判決・平成9年2月14日民集51巻2号337頁参照)というべきであるから、同時履行の抗弁を主張することはできない。
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各争点について、一般的な基準に基づき判断しています。瑕疵については、美観が重要視される部分については美観も重要な要素になりますが、機能性が重視されるものについては、機能上問題なければ瑕疵がないと判断される傾向にあります。
(2022.11.22)
1 事案の概要
本件は、施主が施工業者に注文した共同住宅2棟の新築工事について、耐火性能が不十分であったこと等の瑕疵があったとして、施工業者に対し請負契約の担保責任又は説明義務違反に基づき、修補費用等の損害賠償を請求した事案。
主たる争点は、①民間建設工事標準請負約款の瑕疵担保期間について定めた規定が民法の特則か、②時効の起算点について、③説明義務違反の時効の起算点について、④時効の主張が権利濫用にあたるかである。
2 裁判所の判断
(1)担保責任について約款が民法の特則かについて
民間建設工事標準請負契約約款は、工事目的物の瑕疵によって生じた滅失毀損について規定し、これは補修や損害賠償の対象となるものであるから、工事目的物たる建物自体の瑕疵について民法の特則を定めたものと解することができ、本件において適用を排除すべき理由はない。
(2)担保責任の除斥期間の起算点について
約款における瑕疵担保責任の存続期間の起算点は、改正前民法と同様、引渡時とされる。 本件においては、施工者が建物完成後に一括借上げをしているが、法は引渡しを予定しない請負契約の場合をも想定しているのであって(同法637条2項参照)、現実の引渡しがないことを殊更問題とする必要はない。加えて、一括借上げという形態を踏まえると、現実の引渡しがないことは注文者において当然に想定されるのだから、担保責任の起算点は、建物の引渡しがなされた日(一括借り上げの契約締結時)である。
(3)説明義務違反に基づく請求権の消滅時効の起算点について
施主において説明義務違反を追及するとしても、請負業者の説明義務およびその違反は遅くとも引渡し時点で生じており、その時点ですでに注文者の権利が発生していたのだから、前記(1)と同様、引渡しの時点から権利行使が可能だったというべきである。
(4)消滅時効援用が信義則に反するかについて
施工業者が建物を建築する目的を達成できなくなることを知りながら、その権利行使の機会を奪ったという事実を認める証拠がない。
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瑕疵担保責任の除斥期間の起算点について民法の規定に基づき判断したものであるが、耐火性能が不十分であった等の法的な瑕疵は、行政機関などの第三者から指摘により発覚することが多く、指摘された時点で瑕疵担保責任の時効を過ぎていることが考えられます。
(2022.11.20)
1 事案の概要
本訴は、リフォームを請け負った業者が、注文主に対し、本工事及び追加工事の残代金及び遅延損害金を求めた事案。反訴は、注文主が請負業者に対し、契約に反した施工を行い、未完成部分、不具合部分、瑕疵部分が多数あり、また、請負業者が工事を遅延させたために賃料収入を失ったなどと主張して、契約不履行に基づく損害賠償請求権(債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権を主張するものと解される。)に基づいて、損害賠償金及び遅延損害金を求めた事案。
2 裁判所の判断
(1)仕事の完成の有無及び本件残代金請求権の有無について
民法及び請負契約における解釈として、請負業者が注文主に残代金を請求するための要件としては、①請負業者が本件工事について予定された最後の工程を終了させ、②注文主が請負業者立会いのもとで工事完了検査を行い、③その後、補修することが社会通念上相当と思われる箇所(以下「指摘箇所」という。なお、許容限度の範囲内のものは含まない。)が存在しない状態になり、④正当な理由なく工事完了検査または完成確認書の提出を拒んだ場合に該当することが必要であるとした。
そして、本件では、予定した工事が終了しており、指摘箇所があったと認める証拠はなく、2度目の工事完了検査以降、当事者間では補修について折合いがつかず、請負業者が、請負業者において補修が必要であると判断した箇所とその補修方法を記載した文書を、それまで使用されていた注文主のメールアドレス宛に送信し、これに対する被告からの応答が2カ月なかったのであるから、注文者において正当な理由なく工事完了検査または完成確認書の提出を拒んだ場合に該当するとして、前記要件④も充足される、報酬請求可能とした。
なお、注文趣旨がメールを閲読したかは不明であるが、閲読することは可能であったといえ、それまでの当事者間の連絡方法の態様を考慮すると、請負業者において、注文主による当該文書の閲読を期待することには相応の合理的根拠があったというべきであるとして、注文主が実際に閲読したかどうかは関係ないとした。
(2)瑕疵について
瑕疵については、根太の不設置、床スラブの不陸、サッシのアングルピースの波うち、壁紙の浮き、しわ、凸凹等、巾木と床の隙間などが主張されたが、契約上の施工水準や一般的施工水準をもとに判断した。その結果、壁紙の凸凹は下地の不具合に由来するものがあると認められるところ、下地の補修について契約違反があったとは認められないとした。また、アングルピースは、経年劣化による歪みについて叩いて直すことがあり、その結果歪みが生じても機能上も美観上も問題ないとして瑕疵に当たらないとした。
(3)請負業者による解除の有効性について
瑕疵により目的達成不能ではないから瑕疵担保責任に基づく解除はできず、請負業者に債務不履行はないか(履行遅滞)ら債務不履行に基づく解除もできないとした。
(4)工期延長による債務不履行責任について
工期延長について請負業者に帰責事由はなく、請負業者の瑕疵担保責任と注文主の残代金の支払債務は同時履行の関係に立つので、瑕疵担保責任の履行が遅延したことについて請負業者は責任を負わないとした。
(5)損害について
修補費用については、直接工事費(材料費、労務費、水道光熱費等)に対して諸経費25パーセントと消費税8パーセントを認めた。また、調査費用として、実際の瑕疵該当性等も踏まえ3割相当額、弁護士費用として10%相当額を認めた。建物を賃貸できないことによる損害は、残代金請求と瑕疵修補又は損害賠償請求が同時履行の関係にあり、注文主から残代金の弁済の提供がないことから、瑕疵の補修又は損害の賠償が遅滞したことにより注文主に損害が生じたとしても,その遅滞については違法性が認められず、請負業者の賠償責任を認めなかった。なお、建物引き渡しの有無は結果を左右しないとした。
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民法上、請負契約においては、仕事完成により報酬請求権が発生し、建物建築請負工事契約における仕事の完成とは、予定された最後の工程が終了したことを意味します。本件では、予定された最後の工程まで終了しており、契約及び約款で定められた要件も満たしているとして、請負業者による報酬請求権を認めました。そして、報酬請求と瑕疵修補又は修補に代わる損害賠償請求、報酬請求と建物引き渡しは同時履行の関係にあるとして、修補が遅延していることや引き渡しがないことについての損害賠償請求は認めていません。
(2022.11.13)
1 事案の概要
本件は、大学校舎の改修電気設備工事を請け負った下請業者が、元請業者に対し、請負契約における報酬合意として、①主位的に、実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意をしたと主張して、請負契約に基づく未払報酬及び確定損害金並びに同未払報酬額に対する遅延損害金の支払を求めるとともに、②予備的に、仮に上記報酬合意が認められないとしても、相当額の報酬を支払う旨の合意をしたと主張して、請負契約に基づく未払報酬及び確定損害金並びに同未払報酬額に対する遅延損害金の支払を求めた事案。
主たる争点は、①実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意が成立したか、②相当額の報酬を支払う旨の合意が成立したか、③相当な報酬額がいくらかである。
2 裁判所の判断
(1)実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意が成立したかについて
下請業者が元請業者に対し、複数回にわたり各月の労務費及び部材費等を請求する旨の請求書又はそれに類する書面を送付したが、元請業者がこれらの請求書等に応じた報酬を一度も支払っておらず、また、当該請求書等で請求された報酬を支払う意向を示していたことをうかがわせる事情も見当たらないことから、実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意が成立したと認めることはできないとした。
そして、下請業者が元請業者に工事の見積書を複数回提出しこれに関するやりとりを行ったこと、元請業者が作成した工事金額(予定)欄に「¥未定 ※工事金額未定の場合は、見積書提出後に協議の上、決定します。」との記載のある「指示書」を下請業者に出し、下請業者が、「上記の通り工事の指示内容を承諾いたします。」と記載した「承諾書」を作成していることから、当初から、見積書に基づき報酬額を決定すること、すなわち、工事の報酬を、実費ではなく、見積書を基にした固定額とすることを、予定していたというべきであるとした。
(2)相当額報酬支払の合意について
元請業者が請負契約に基づき相当な報酬額を支払う義務を負っていること自体は認めていることから、両者は当初から見積書に基づき報酬額を決定することを予定していたといえ、請負契約締結の際、少なくとも黙示的に相当な報酬額を支払う旨の合意が成立していたとした。
(3)相当な報酬額について
まず、相当な報酬額は、当事者間に推認される合理的意思や、工事の規模・内容等諸般の事情を総合して判断するのが相当であるとして、下請業者が元請業者に提出した最終の見積書の額をベースとして、出来高割合方式により相当額について認容した。
なお、下請業者は、元請業者に提出した最終の見積書については元請業者に作成するよう指示されたもので下請業者の希望額ではないと主張したが、証拠上、元請業者から強いられたとは認められず、その内容についても、元請業者が入札した際の予定価格のもととなる工事内訳書を基に作成されたものであることなどから、見積書にも相応の信憑性が認められるとして、下請業者の主張を排斥した。一方、元請業者も最終の見積書の額については争ったが、当初見積書については修正を依頼したにもかかわらず、最終の見積書についてはそうした行動をとらなかったとして、元請業者の主張を排斥した。
また、下請業者は、被告指示、変更工事等により工事の人件費及び部材費が増大した、と主張したが、いずれについても、人員を適切に配置することで対処できた可能性が否定できない、あるいは、増大した人件費や部材の具体的な金額が証拠上明かでないなどとして排斥した。
3 コメント
本件では、報酬額の合意について争いとなったが、見積書に関する当事者の交渉経緯を詳細に認定し、合意の成立を判断しています。見積書に対して単に応答しなかったことをもって黙示の合意が成立したということにはなりませんが、当初見積もりについては修正を依頼したにもかかわらず、その後の見積書に何ら異議を述べなかった場合は、黙示の合意の推定が働く可能性もあります。
なお、元請業者の指示等による部材、人件費が増大したという下請業者の主張は、証拠上増大した具体的な金額が明らかでないとして排斥しましたが、本件は、専門家調停委員が入っていないことから、専門家調停員が入った場合、変更工事等による人件費の増加等については、異なる結論が出た可能性も否定できないと考えます。
(2022.11.12)