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区分所有者が管理組合に対し、区分所有者が負担した共有部分の修繕費用等について、不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得に基づく返還請求をした事案(東京地判平成31年1月10日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者が、マンションの管理組合に対し、居室内に発生した雨漏りについて共有部分の修繕を依頼したにも関わらず、管理組合がこれに応じなかったため、区分所有者が管理組合に代って調査及び修繕をしたと主張して、主位的に不法行為に基づく損害賠償請求、予備的に不当利得に基づく返還請求をした事案である。
 主たる争点は、①漏水の有無、②不法行為の成否(故意・過失の有無)、③不当利得の成否である。

2 裁判所の判断

(1)漏水の有無について

 管理組合が行った実施調査は、調査実施の前日の朝には相応の降雨があったものの、その後24時間以上降雨がない状態で実施されたものであり、しかも、当時は7月中旬で、この間の最高気温は約29.5度、日照も相応にあったことが認められる。これに加え、出窓が建物の4階東側に位置しており、東及び南からの日当たりが良好であることなどにも鑑みれば、管理組合実施調査の実施時における出窓周辺は相応に乾燥していた可能性があり、赤外線カメラ(濡れているところと乾いているところとの温度差等を調べるもの)によって漏水の有無を判断することは困難であった可能性があるから、管理組合実施調査は、漏水調査としては不十分な調査であったといわざるを得ず、その信用性は高くないというべきである。

 他方、区分所有者実施調査は、出窓上部のコーキング部分等への散水と赤外線サーモグラフィーの併用による調査を行い、その結果として、コーキングの肌別れ部分に散水を行うと出窓上部のサッシ枠固定部から散水水が流れ出てくることから、外壁とサッシ枠接合面のコーキングの肌別れ部分から雨水が廻り込む漏水が発生しているなどと結論付けているのであり、その信用性は高いというべきである。
 以上によれば、遅くとも区分所有者実施調査が行われた頃には、本件出窓上部の外壁とサッシ枠接合面のコーキングの肌別れ部分から雨水が廻り込む漏水が発生していたと認められる。

(2)管理組合の故意・過失による義務違反の有無について

 管理規約の定めによれば、外壁は建物の共有部分であり、共有部分の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとされているから、管理組合は、出窓における漏水に関して、管理組合の責任と負担において管理修繕すべき義務を負っていたといえる。
 しかし、管理組合は、出窓に関して、専門家(一級建築士)に依頼して調査を行っていたのであるから、調査義務を怠ったとはいえない。また、調査の結果、漏水の事実が認められなかったとされた以上、管理組合において、漏水の事実を認めずに修繕工事を行わなかったことをもって、故意又は過失により管理修繕義務を怠ったとまではいえない。

(3)不当利得の有無について

管理組合は、出窓における漏水に関して、管理組合の責任と負担において管理修繕すべき義務を負っていたところ、区分所有者の依頼・要求にも関わらず、管理組合が結果として必要にして十分な調査を行わず、修繕工事も行わなかったことから、区分所有者において、漏水の原因の特定及びその解消のために、区分所有者実施調査及びこれに基づく本件工事を行い、その費用を支出したことが認められ、管理組合は、区分所有者がこれらに関して負担した費用について、その損失において法律上の原因なく利益(不当利得)を得たというべきである。

(4)不当利得の額について

 区分所有者の支出額が不相当であると認めるに足りる証拠はないから、同額が不当利得の額である。

3 コメント

 管理規約により共有部分の修繕については管理組合が行うべきところ、管理組合が対応しなかったことから、区分所有者が自ら調査、修繕を行い、管理組合に当該調査委費用及び修繕費用を求め、これが認められたものであり、当然の結果であると考えます。
 問題は、管理組合が調査を依頼した会社の調査方法が必ずしも適切ではなかったということです。赤外線による漏水調査は、雨漏りで浸入した雨水が蒸発するときの気化熱を利用して雨漏り箇所を特定するもので、散水調査後または雨が降った直後に調べる必要があり、裁判所もこの点を指摘しています。

(2024.1.5)

飲食店舗の内装工事に関し、追加変更工事の合意の有無、瑕疵の有無等が争点となった事案(東京地判令和2年6月5日)

1 事案の概要

 本件は、飲食店用の内装工事を請け負った会社が、追加変更工事を含む工事を完成させたと主張して、請負契約に基づく請負代金及び追加変更工事代金から減工事等分を控除した増加分及びこれに対する引渡しの日の翌日から支払済みまで遅延違約金の支払を求めた事案。

 主たる争点は、①追加変更工事の合意の有無、②現場管理費の支払い義務の有無、③瑕疵の有無である。

2 裁判所の判断

(1)追加変更工事の合意の有無について

 契約時見積書及び図面においては、トイレの床がビニルシート貼り、壁がビニルクロス貼りとされていたが、実際には、防水工事が実施された上、床がタイル仕上げ、壁が腰壁までタイル仕上げ、それより上はビニルクロス貼りが施工されたことが認められる。この実際の工事は、契約時見積書及び図面の範囲外である上、これらの工事の内容に照らして、被告の指示もなく施工されたとは考え難いから、追加変更工事の合意を推認することができる。また、カウンター下部に収納を設ける工事は、契約時見積書及び図面の範囲外であると認められ、これらの工事の内容に照らして、被告の指示もなく施工されたとは考え難いから、追加変更工事の合意を推認することができる

(2)現場管理費の支払い義務の有無について

 現場管理費には、職人の手配、工程等の管理のための経費のほか、現場における駐車場代等も含まれるなどの事実に照らすと、この費目は、個々の工事に対する直接の対価ではなく、本件工事全体における現場管理、運営のための諸経費を包括的に含むものとして直接工事費に加算して計上されているものと理解することができ、本件工事全体が完成すれば、現場管理費も含めた本件請負代金の支払義務が発生する関係にあるものと認められるので、注文主が現場に立ち会っていたとしても現場管理費が消滅するものではない。

(3)瑕疵の有無について

 一般的施工基準に照らし、クロスの剥離、天井ボードの穴、排水の勾配不足、色むら(程度問題)、コーキングの未施工、自動水栓の位置(高すぎて水撥ねがするなど)、対面する椅子の座面の高さの不均衡(備え付けのベンチシート)、吸気と喚起のアンバランス(換気扇の排気能力に対し、自然吸気では足りないとして給気口に換気扇を必要とした)等について瑕疵とした。なお、水栓については、依頼主の同意を得ていたとしても、専門業者として十分な説明がなかったとして瑕疵とした。

また、修補のための諸経費として15%相当額を認めた。

3 コメント

 本件は、追加変更工事についての合意を推認していますが、当初の設計内容にない施工であり、明らかなグレードアップや工事内容の大きな変更は、注文者の指示なく請負業者が勝手に行わないであろうという経験則がベースになっています。同様に、判断した裁判例は他にも多くあります。
 現場管理費や諸経費は一定の料率で認められています。また、本件では、一般的施工水準に照らし瑕疵の判断をしていますが、仮に、施主の合意や指示があってても、その指示通りに施行すると不具合が生じる場合は、施工業者としては専門的知見に基づいて不具合が生じる可能性について説明する責任があります。そうした責任を果たさずに施行して、不具合が生じた場合、施工業者が責任を負うので注意が必要です。

(2022.11.23)

請負業者が請負代金を請求したのに対し、注文主が補修工事の発生による追加工事などによる精神的苦痛について慰謝料請求をした事案(東京地判令和3年9月14日)

1 事案の概要

 本件は、請負会社が注文主に対し、外壁塗装等の請負代金の支払いと求めたところ、注文主が請負業者に対し、請負業者よる杜撰な工事等により精神的苦痛を受けたとして慰謝料請求するとともに、工事の完成が遅滞したとして約定の遅延損害金を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)慰謝料請求について

 請負業者の工事が総じて杜撰なものであり、本来であれば必要のなかった工事が行われることによって、注文主は、生活の本拠である自宅において騒音・振動等の工事に伴う不利益をより長期間(37日間)甘受せざるを得なかったのであるとして、債務不履行又は不法行為に基づき、精神的苦痛に対する賠償をする義務を負うとして10万円の慰謝料を認めた。
 一方、補修工事をめぐる協議等の場面における請負業者側の対応により精神的苦痛を受けたとする注文主の主張については、慰謝料を生じさせるほど高度の違法性があったということはできないとして否定した。

(2)約定遅延損害金について

 工事請負契約における完成の成否は、工事が予定された最後の工程まで一応終了したか否かによって判断すべきであって、予定された最後の工程まで終了しているものの、それが不完全であって修補を要する場合には、工事は完成しており、あとは瑕疵担保責任の問題になるにすぎないと解するのが相当であるとし、本件では、シーリングの一部未施工があるが最後の工程まで終了しているとして、遅延損害金は認めなかった。
 なお、請負業社側が工事遅延により迷惑をかけた旨謝罪しているが、それは、慰謝料を支払う旨の提案であり、完成の成否を左右するものではないとした。

3 コメント

 建築訴訟においては、瑕疵が修補されれば損害は賠償されたとして慰謝料請求を認めない事例が多いですが、本件で慰謝料請求が認められたのは、元々の工事が杜撰であったことや外壁工事で建物の周囲が足場等で覆われていたという事情も加味されたものと考えられます。
 なお、工事完成の有無についての判断は、一般的な判断方法によっています。

(2022.10.30)