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飲食店舗の内装工事に関し、追加変更工事の合意の有無、瑕疵の有無等が争点となった事案(東京地判令和2年6月5日)

1 事案の概要

 本件は、飲食店用の内装工事を請け負った会社が、追加変更工事を含む工事を完成させたと主張して、請負契約に基づく請負代金及び追加変更工事代金から減工事等分を控除した増加分及びこれに対する引渡しの日の翌日から支払済みまで遅延違約金の支払を求めた事案。

 主たる争点は、①追加変更工事の合意の有無、②現場管理費の支払い義務の有無、③瑕疵の有無である。

2 裁判所の判断

(1)追加変更工事の合意の有無について

 契約時見積書及び図面においては、トイレの床がビニルシート貼り、壁がビニルクロス貼りとされていたが、実際には、防水工事が実施された上、床がタイル仕上げ、壁が腰壁までタイル仕上げ、それより上はビニルクロス貼りが施工されたことが認められる。この実際の工事は、契約時見積書及び図面の範囲外である上、これらの工事の内容に照らして、被告の指示もなく施工されたとは考え難いから、追加変更工事の合意を推認することができる。また、カウンター下部に収納を設ける工事は、契約時見積書及び図面の範囲外であると認められ、これらの工事の内容に照らして、被告の指示もなく施工されたとは考え難いから、追加変更工事の合意を推認することができる

(2)現場管理費の支払い義務の有無について

 現場管理費には、職人の手配、工程等の管理のための経費のほか、現場における駐車場代等も含まれるなどの事実に照らすと、この費目は、個々の工事に対する直接の対価ではなく、本件工事全体における現場管理、運営のための諸経費を包括的に含むものとして直接工事費に加算して計上されているものと理解することができ、本件工事全体が完成すれば、現場管理費も含めた本件請負代金の支払義務が発生する関係にあるものと認められるので、注文主が現場に立ち会っていたとしても現場管理費が消滅するものではない。

(3)瑕疵の有無について

 一般的施工基準に照らし、クロスの剥離、天井ボードの穴、排水の勾配不足、色むら(程度問題)、コーキングの未施工、自動水栓の位置(高すぎて水撥ねがするなど)、対面する椅子の座面の高さの不均衡(備え付けのベンチシート)、吸気と喚起のアンバランス(換気扇の排気能力に対し、自然吸気では足りないとして給気口に換気扇を必要とした)等について瑕疵とした。なお、水栓については、依頼主の同意を得ていたとしても、専門業者として十分な説明がなかったとして瑕疵とした。

また、修補のための諸経費として15%相当額を認めた。

3 コメント

 本件は、追加変更工事についての合意を推認していますが、当初の設計内容にない施工であり、明らかなグレードアップや工事内容の大きな変更は、注文者の指示なく請負業者が勝手に行わないであろうという経験則がベースになっています。同様に、判断した裁判例は他にも多くあります。
 現場管理費や諸経費は一定の料率で認められています。また、本件では、一般的施工水準に照らし瑕疵の判断をしていますが、仮に、施主の合意や指示があってても、その指示通りに施行すると不具合が生じる場合は、施工業者としては専門的知見に基づいて不具合が生じる可能性について説明する責任があります。そうした責任を果たさずに施行して、不具合が生じた場合、施工業者が責任を負うので注意が必要です。

(2022.11.23)

請負業者が請負代金を請求したのに対し、注文主が補修工事の発生による追加工事などによる精神的苦痛について慰謝料請求をした事案(東京地判令和3年9月14日)

1 事案の概要

 本件は、請負会社が注文主に対し、外壁塗装等の請負代金の支払いと求めたところ、注文主が請負業者に対し、請負業者よる杜撰な工事等により精神的苦痛を受けたとして慰謝料請求するとともに、工事の完成が遅滞したとして約定の遅延損害金を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)慰謝料請求について

 請負業者の工事が総じて杜撰なものであり、本来であれば必要のなかった工事が行われることによって、注文主は、生活の本拠である自宅において騒音・振動等の工事に伴う不利益をより長期間(37日間)甘受せざるを得なかったのであるとして、債務不履行又は不法行為に基づき、精神的苦痛に対する賠償をする義務を負うとして10万円の慰謝料を認めた。
 一方、補修工事をめぐる協議等の場面における請負業者側の対応により精神的苦痛を受けたとする注文主の主張については、慰謝料を生じさせるほど高度の違法性があったということはできないとして否定した。

(2)約定遅延損害金について

 工事請負契約における完成の成否は、工事が予定された最後の工程まで一応終了したか否かによって判断すべきであって、予定された最後の工程まで終了しているものの、それが不完全であって修補を要する場合には、工事は完成しており、あとは瑕疵担保責任の問題になるにすぎないと解するのが相当であるとし、本件では、シーリングの一部未施工があるが最後の工程まで終了しているとして、遅延損害金は認めなかった。
 なお、請負業社側が工事遅延により迷惑をかけた旨謝罪しているが、それは、慰謝料を支払う旨の提案であり、完成の成否を左右するものではないとした。

3 コメント

 建築訴訟においては、瑕疵が修補されれば損害は賠償されたとして慰謝料請求を認めない事例が多いですが、本件で慰謝料請求が認められたのは、元々の工事が杜撰であったことや外壁工事で建物の周囲が足場等で覆われていたという事情も加味されたものと考えられます。
 なお、工事完成の有無についての判断は、一般的な判断方法によっています。

(2022.10.30)