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マンションの賃貸人が漏水事故により損害を被ったとして賃貸人、管理組合及び管理会社に対して損害賠償請求した事案(東京地判令和2年9月25日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの一室の賃貸人が、建物における漏水事故(配管内の異物混入を原因とする)について、賃貸人に対し、債務不履行に基づき、管理組合に対し、民法709条又は民法717条1項に基づき、管理会社に対し、民法709条又は民法717条1項に基づき、それぞれ損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、賃貸人に対し、予備的に、不当利得返還請求権に基づき、賃料相当額の返還を求める事案。

2 裁判所の判断

(1)管理組合及び管理会社の民法709条の責任について

 漏水事故が発生する以前に配管内に異物が混入していることをうかがわせるような不具合が生じた等の事情は認められないから、管理組合又は管理会社がマンションの共用部分の修繕、保守点検等として、配管内の状態を確認する検査を行う義務を負っていたということはできず、異物を発見することができなかったとしても、このことにより配管の管理を怠ったということはできず、不法行為責任は成立しない。
 なお、管理規約上、給排水衛生設備は、専有部分に属さない建物の附属部分として、共用部分に属するものとされている。

(2)管理組合及び管理会社の民法717条の責任について

 管理組合は、区分所有法3条の管理組合として、マンションの共用部分を管理しているものの、共用部分は、本件マンションの区分所有者全員の共用に供されるべき部分であるから、マンションの区分所有者全員がこれを占有しているというべきであって、管理組合が上記共用部分の管理をしていることをもって、これを占有しているということはできない。
 同様に、管理会社は、管理組合からマンションの共用部分の管理を委託されているものの、管理組合が共有部分を占有しているといえない以上、被管理会社もこれを占有しているということはできない。
 したがって、配管の設置又は保存に瑕疵があり、これにより事故が生じたとしても、管理組合や管理会社がこれを占有していたということはできず、工作物責任は負わない。

(3)賃貸人の債務不履行について

 事故は、配管の内部に本件角材が混入し、その周囲に本件配管の内部を流れる物体が詰まり、これらが配管を塞いだことを原因として発生したものと認められるところ、配管に角材が混入した経緯は不明であって、管理組合又は管理会社が配管の管理を怠ったということはできない上、配管は共用部分に属し、賃貸人は、配管を直接管理し得る立場にはない。また、事故が発生した後、建物について修繕を行う前提となる建物の調査が行われるまでに7か月余りが経過しているところ、賃借人は、賃貸人及び管理会社の各担当者が調査への協力を要請しても、これに応じなかったことが認められ、そのために賃貸人が建物の修繕を行うことができなかったものというべきであるから、事故の後、直ちに修繕が行われなかったことについても、賃他人が修繕義務を怠ったということはできない。以上により、賃貸人が債務不履行責任を負うということはできない。

3 コメント

 本件は、共用部分である配管のトラブルが原因となって専有部分に漏水等の事故が生じた事案です。このような場合、裁判例では、区分所有者が管理組合に対し、不法行為や管理組合との委任契約に基づいて損害賠償請求をするという形で争いとなりますが、区分所有者と管理組合に委任契約があるかについては明確に判断しておらず、区分所有法3条、19条、23条や管理規約ともに管理組合が負担すべきとしています。ただ、判示内容を見る限り、管理組合に過失がない場合にも管理組合が賠償責任を負うかについては明確ではありません。もっとも、実際は、保険対応で処理される場合が多いと思われます。
 本件は、専有部分を賃貸にしていたので、賃借人が賃貸人の債務不履行責任、管理組合及び管理会社の不法行為責任及び工作物責任を追及する形をとっています。もっとも、配管トラブルの責任が施工業者にあると考えられ、管理組合や管理会社に過失は認められないことから不法行為責任は負わず、管理組合はマンションの共用部分を管理していますが、共用部分はマンションの区分所有者全員が占有しているというべきであるから、管理組合は占有者に当たらず工作物責任を負わないとされました(東京高判平成29年3月15日同旨)。なお、管理組合が工作物責任を負う旨判示した裁判例もあります。

(2022.11.19)