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施工業者による建物の一括借り上げの場合の瑕疵担保責任の時効期間の起算点等が争いとなった事案(東京地判令和2年10月30日)

1 事案の概要

 本件は、施主が施工業者に注文した共同住宅2棟の新築工事について、耐火性能が不十分であったこと等の瑕疵があったとして、施工業者に対し請負契約の担保責任又は説明義務違反に基づき、修補費用等の損害賠償を請求した事案。
 主たる争点は、①民間建設工事標準請負約款の瑕疵担保期間について定めた規定が民法の特則か、②時効の起算点について、③説明義務違反の時効の起算点について、④時効の主張が権利濫用にあたるかである。

2 裁判所の判断

(1)担保責任について約款が民法の特則かについて

 民間建設工事標準請負契約約款は、工事目的物の瑕疵によって生じた滅失毀損について規定し、これは補修や損害賠償の対象となるものであるから、工事目的物たる建物自体の瑕疵について民法の特則を定めたものと解することができ、本件において適用を排除すべき理由はない。

(2)担保責任の除斥期間の起算点について

 約款における瑕疵担保責任の存続期間の起算点は、改正前民法と同様、引渡時とされる。   本件においては、施工者が建物完成後に一括借上げをしているが、法は引渡しを予定しない請負契約の場合をも想定しているのであって(同法637条2項参照)、現実の引渡しがないことを殊更問題とする必要はない。加えて、一括借上げという形態を踏まえると、現実の引渡しがないことは注文者において当然に想定されるのだから、担保責任の起算点は、建物の引渡しがなされた日(一括借り上げの契約締結時)である。

(3)説明義務違反に基づく請求権の消滅時効の起算点について

 施主において説明義務違反を追及するとしても、請負業者の説明義務およびその違反は遅くとも引渡し時点で生じており、その時点ですでに注文者の権利が発生していたのだから、前記(1)と同様、引渡しの時点から権利行使が可能だったというべきである。

(4)消滅時効援用が信義則に反するかについて

 施工業者が建物を建築する目的を達成できなくなることを知りながら、その権利行使の機会を奪ったという事実を認める証拠がない。

3 コメント

 瑕疵担保責任の除斥期間の起算点について民法の規定に基づき判断したものであるが、耐火性能が不十分であった等の法的な瑕疵は、行政機関などの第三者から指摘により発覚することが多く、指摘された時点で瑕疵担保責任の時効を過ぎていることが考えられます。

(2022.11.20)