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マンション関係についてのコラム

円滑化法に基づく敷地売却決議により建物の明渡しを強制させる賃借人が区分所有法44条1項の利害関係に含まれるか争われた事案(東京地判令和4年3月28日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者から専有部分を賃借している者が、管理組合総会における円滑化法108条1項に基づくマンションの敷地売却決議には、区分所有法44条1項及び管理規約に違反する瑕疵があり、その瑕疵の程度も重大であるとして、上記決議の無効確認を求めた事案。
 なお、円滑化法149条1項により権利消滅期日に借家権が消滅し、同法155条により借家人はその日までに貸室を明け渡さなければならなくなる。

2 裁判所の判断

 区分所有法44条1項の趣旨は、同法において、区分所有者以外の専有部分の占有者も、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならず(6条3項・1項、57条4項、60条)、また、建物又は敷地若しくは附属施設の利用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う(46条2項)ことから、区分所有者の承諾を得て専有部分を占有する者に対し、「会議の目的たる事項につき利害関係を有する場合」に、集会の議事に関与する機会を与えるところにある。かかる同法44条1項の趣旨に照らせば、「利害関係を有する場合」とは、占有者が法律的な利害関係を有する場合であって、事実上の利害関係を有する場合を含まず、具体的には、占有者が直接に義務を負うことになる建物又は敷地若しくは附属施設の使用方法に関して集会の決議をする場合(それに関する規約の設定又は変更の決議をする場合を含む。)をいうと解される。
 これを本件についてみると、円滑化法120条、122条、141条、147条、149条および155条等によれば、マンション敷地売却事業において、マンション敷地売却合意者(マンション敷地売却決議の内容によりマンション敷地売却を行う旨の合意をしたものとみなされた者)らにより都道府県知事等の認可を受けて設立された敷地売却組合が、分配金取得計画を定めて都道府県知事等の認可を受け、その旨を公告するとともに、関係権利者に関係事項を書面で通知することにより、同計画に定められた権利消滅期日において、売却マンションが敷地売却組合に帰属し、売却マンションを目的とする所有権以外の権利は消滅し、売却マンション又はその敷地を占有している者が、権利消滅期日までに、敷地売却組合に売却マンション又はその敷地を明け渡さなければならない。
 そうすると、本件マンションの敷地売却事業においては、前記前提となる事実のとおり、本件決議後に、マンション敷地売却合意者らにより港区長の認可を受けて設立された本件売却組合が、分配金取得計画を定めて港区長の認可を受け、その旨を公告するとともに、関係権利者に関係事項を書面で通知することにより、同計画に定められた権利消滅期日において、賃借人の本件居室に係る借家権が消滅し、賃借人は、権利消滅期日までに、本件売却組合に本件居室を明け渡さなければならないこととなる。したがって、賃借人は、本件決議によって、本件マンション又はその敷地若しくは附属施設の使用方法に関して直接に義務を負うことになるとはいえず、また、本件決議によって本件居室の明渡義務を負うことになるともいえないから、賃借人は、本件議案に法律上の利害関係を有すると認めることはできない。よって、本件決議に瑕疵はない。

3 コメント

 区分所有法44条1項の「利害関係を有する」とは、占有者が法律的な利害関係を有する場合であって、事実上の利害関係を有する場合を含まず、具体的には、占有者が直接に義務を負うことになる建物又は敷地若しくは附属施設の使用方法に関して集会の決議をする場合(それに関する規約の設定又は変更の決議をする場合を含む。)をいうと解されています。本判決も同様に解して利害関係がないと判断しています。
 なお、意見陳述権が認められる場合は、集会への出席自体が認められており、出席を認めず書面のみで意見陳述させることは本法違反と解されています。また、本法違反の決議は、意見陳述の機会を与えられなった占有者との関係では効力が及びないとかされています。

(2022.12.4)

事務所部分と住居部分の修繕積立金の負担割合の不均衡を是正する管理規約の変更決議の有効について争われた事案(東京地判令和4年3月31日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者がが、管理組合に対し、自らの共有持分の修繕積立金を増額した管理組合の総会における管理規約の改正決議が無効であるとして、その増額分につき、既払金の返還等及び未払分の支払義務がないことの確認を求める本訴請求と、これに対し、管理組合が、当該区分所有者に対し、同改正決議は有効であるとして、改正後の管理規約に基づく未払の増額分の修繕積立金の支払等を求めた事案。
 主たる争点は、①総会決議後の専有部分を取得した者は、総会決議を争うことができるか、②事務所部分の修繕積立金の増額(修繕積立金だけを見ると住居部分の1.5倍)が区分所有法30条3項に反するか、③将来請求の可否である。

2 裁判所の判断

(1)総会決議後の専有部分を取得した者は、総会決議を争うことができるかについて

 本件決議は管理規約に定める修繕積立金につき、事務所部分についてのみ負担を増加させる変更決議であり、同決議は事務所部分の区分所有者からの特定承継人である原告に対してもその効力が及ぶため(法46条1項)、総会決議後に専有部分を取得した者も本件決議の効力を争うことができると解すべきである

(2)事務所部分の修繕積立金の増額が区分所有法30条3項に反するかについて

 本件改正による事務所部分の修繕積立金の増額は、それ自体は住戸部分との不均衡を招くものといえるが、事務所部分と住戸部分の管理費の額も考慮すると必ずしも利害の衡平を害するものとはいえず(事務所部分が住居部分より割安)、このことは法30条3項が定めるその余の考慮要素を加味しても左右されない。なお、管理費と修繕積立金が使途目的を異にするが、区分所有法30条3項該当性の判断に当たり、これらを併せて検討することができないとは解されない。

(3)将来請求の可否について

 区分所有者の未払いが3年程続いていることから、将来請求の必要性を認めた。

3 コメント

 本判決は、区分所有建物を取得した者が自己に法的利害関係がある事項についての取得前の総会決議の効力を争うことができると判断しました。また、長期間修繕積立金の一部未払があったことから将来請求も認めました。
 本件のように、管理費の額などに不均衡がありこれを是正(増額)する管理規約の変更が行われた場合、区分所有法31条1項後段の同意の有無の要否が争点となる場合もあります。

(2022.12.3)

住居部分は住居として使用しなければならないとする管理規約設定の総会決議の無効が争われた事案(東京地判令和2年6月24日)

1 事案の概要

 本件本訴は、マンションの部屋を店舗として貸し出している区分所有者が、管理組合に対して、住居部分は住居として使用しなければならいとする管理規約の設定に関する総会決議は、専有部分を賃貸用店舗として使用収益する当該区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすにもかかわらず原告の承諾を得ることなく決議されたものであるから区分所有法31条1項に違反し無効であるなどと主張して決議無効を争うとともに、不法行為に基づく損害賠償請求した事案。
 本件反訴は、管理組合が本訴に対応するための弁護士費用について、管理規約に基づき当該区分所有者に請求した事案。

2 裁判所の判断

(1)区分所有法31条1項に違反するか否かについて

 ア 「特別の影響を及ぼすべき」場合に当たるかについて      

 202号室は、遅くとも原告が取得した時点で、台所や浴室も設置されていない事務所仕様の間取りとなっており、原告は、これを第三者に賃貸して収益を上げる目的で取得して以降、事業用建物として事業者に賃貸して収益を得ていたのであるから、事務所として使用できないとする管理規約が設定されると、原告の202号室に係る使用収益権は多大な制約を受け、原告が所期の目的を達することが困難になるとともに、これを住宅として使用する場合であっても相当多額の改装費用の支出を余儀なくされることとなる。そうすると、事務所として使用できないとする管理規約が設定されることによる原告の不利益は決して小さいものとはいえない。
 また、管理規約の設定当時又はそれ以前に、202号室が事業者に賃貸されていたほか、2部屋についても事務所として使用されていた実態があるところ、このことにより、本件マンションの地上2階以上の居住者の住環境が格別害されていた様子はうかがえない。
 以上のような202号室の現況や原告による同室の利用状況等に照らすと、事務所として使用できないとする管理規約を設定して原則住宅としての使用に限ることは、その必要性、合理性に比して、これにより原告が受ける不利益の程度が大きく、その不利益が一部の区分所有者の受任すべき限度を超えると認められる場合に該当するから、区分所有法31条1項後段の「特別の影響を及ぼすべきとき」に当たる。

 イ 同意があったかについて

 区分所有法31条1項後段の承諾は、管理規約の設定等の決議に際してこれに賛成する旨の意思表明をした場合もこれに含まれると解すべきところ、原告は、本件決議に先立ち、議決権行使を理事長に委ねる旨の委任状を提出したのであるから、これにより、原告の上記承諾があったものと解するのが相当である。

(2)管理規約に基づき弁護士費用を区分所有者に請求できるかについて

 被告管理規約には、区分所有者等において規約違反等の事実があり、理事長が、当該区分所有者等に対してその是正等を請求するための訴えを提起した場合に、違約金として、これに要する弁護士費用等の支払を求めることができる旨を定められているに過ぎないところ、本件は、区分所有者が自身の規約違反行為の根拠とされた被告管理規約の設定を承認した本件決議が違法無効であって同規約の規定が無効であるにもかかわらず規約違反行為があるとして退去要求等を受けたと主張して管理組合に損害賠償を求める訴訟に対し、管理組合が応訴したものであって、区分所有者の規約違反行為を是正するための訴えがされているものではないから、被告管理規約が適用される場面ではない。また、区分所有者の行為が不法行為を構成するものではない。
 そのような場合に、応訴した管理組合に管理規約に基づく弁護費用等の諸費用の請求を認めるとすると、本件マンションの区分所有者が管理組合の行為の違法を主張して訴訟提起することに対する萎縮的効果を生じさせ裁判を受ける権利を実質的に損ないかねない上、我が国においては、訴訟追行に要する弁護士費用を敗訴者の負担とすることを原則とするものではないことからすると、相当とはいえない。

3 コメント

 マンションの専有部分の利用方法の制限に関し、区分所有法31条1項を根拠として争われる場合がありますが、本件では、「特別の影響を及ぼす」場合に当たるとしました。本件では、従前から事務所として賃貸されていた物件を賃貸目的で購入したこと、当該物件には風呂などの居住用の設備が設置されていないこと等から、区分所有者の不利益が大きいと判断したものと思われ、その点は妥当と思われます。また、同意については、総会決議に委任状を提出したことをもって承諾したものと認定しています。
 そして、管理組合の応訴に対する相手方請求については、管理規約が定める対象ではなく、また、日本において弁護士費用等の敗訴者負担の仕組みがないことなどから、これを否定しています。

(2022.12.1)

管理組合が元理事長及び管理会社に対し、債務不履行責任等を主張して損害賠償請求等をした事案(東京地判令和2年7月10日)

1 事案の概要

 本件は、マンション管理組合が元理事長に対し、①主位的に、総会決議(委任状無効により)が無効であると主張して、不当利得返還請求権に基づく元理事が管理組合から受領した役員報酬の返還を求め、②予備的に、総会決議が有効である場合を前提に、理事長としての善管注意義務違反に基づく損害賠償として、役員報酬相当額の損害賠償を求めるとともに、①工事の際の事務所名目で本件マンションの自己所有の居室を原告に対して賃貸したことは自己取引に当たり無効であり、理事長としての善管注意義務違反にも当たると主張して、選択的に、不当利得返還請求又は債務不履行に基づく損害賠償請求をし、②管理組合に不必要な工事をさせたことが理事長としての善管注意義務違反に当たると主張して、その損害賠償請求をし、管理会社に対し、①主位的に、総会決議が無効であると主張して、管理会社が管理組合から受領した事務管理業務費及び管理手数料の返還を求め、②予備的に、総会決議が有効である場合を前提に、債務不履行に基づく損害賠償請求として、事務管理業務費及び管理手数料相当額を求めるとともに、管理委託契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として不必要な工事費用相当額の賠償を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)総会決議の有効性について

 管理規約では受任者は同居者と定めているところ、委任状は同居者に限定せず組合員としていることから、当該委任状をもとにした総会決議は無効であるとの主張に対し、合理的解釈をすれば、代理人は、マンションの運営に利害関係を有する他の組合員か、当該以外の者である場合には当該組合員と同居する者に限定するという趣旨の規定であると解するのが相当であるとして、同居人以外の組合員を受任者とした委任状は有効であり、総会決議は有効であるとした。

(2)元理事の善管注意義務違反について

 各修繕工事の必要性を個別に判断し、その必要性を認め、元理事に善管注意義務違反はないとした。

(3)元理事の不当利得について

 元理事が自分の部屋を管理組合に貸し出した点については、自己取引に当たり、理事会の同意もなく、総会でも承認が否決されたことから不当利得に当たるとして、賃料相当額の返還請求を認めた。

(4)管理会社の責任について

 管理会社の責任は否定した。

3 コメント

 元理事の行為に対して、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償請求がなされる場合がありますが、管理組合に生じた損害については、各区分所有者ではなく管理組合が原告となって訴訟を提起することになります。

(2022.11.27)

一般社団法人法の類推適用により総会決議取消ができるか、区分所有者を被告とする訴訟に管理費を充てることができるか等が争われた事案(東京地判令和2年7月28日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者が管理組合との間で、臨時総会議案「弁護士費用支払い承認の件」を承認する旨の決議につき、決議の内容又は方法が法令又は被告の管理規約に違反すると主張して、主位的に、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律266条1項1号及び2号の類推によりその取消しを求め、予備的に、同決議が無効であることの確認を求める事案。
 主たる争点は、①一般社団法人法266条1項1号及び2号を類推適用により総会決議の取消しを訴訟提起できるか、②総会決議無効事由(区分所有者の一部を被告とした訴訟の弁護士費用を管理費で負担することについて)があるかである。

2 裁判所の判断

(1)一般社団法人法266条の類推適用により総会決議の取消しを訴訟提起できるかについて

 一般法人法266条1項に基づく決議取消しの訴えは、形成の訴えであると解されるところ、形成の訴えは、その性質上、事実ないし権利関係の変動を画一的に規制する必要がある場合について、法が、対世効を有する判決によって訴訟の目的たる事実ないし権利関係の変動を画一的に生じさせることを規定したものである。このような形成の訴えの特殊性、影響力の大きさに照らすと、形成の訴えを定めている法を類推適用することによって、これを安易に拡張して認めることは許されない。

 さらに、区分所有法の規定をみると、同法3条の区分所有者の団体のうちで法人格を取得した管理組合法人の場合において、一般法人法を一部準用する規定が存在する(区分所有法47条10項)一方、一般法人法266条1項は準用の対象から除外されているから、法は、管理組合が法人となっている場合においても、その決議に一般法人法266条1項が適用されることは予定していないというべきである。
 そうすると、区分所有者を構成員とする団体という点で管理組合法人と類似する性質を有する被告においても、その総会決議について、一般法人法266条1項1号を類推適用してこれを取り消すことは法の予定するところではなく、許されないものと解すべきである。

(2)総会決議無効事由の有無について

 管理組合において行うことができる行為は、本件マンションの「管理組合が管理する敷地及び共用部分等の保安、保全、保守、清掃、消毒及び塵芥処理」や「組合管理部分の修繕」など、分譲共用部分の管理又は使用に関する行為である、本件管理規約30条各号に定められた事項に限られると解される。
 そして、管理組合の集会決議について、区分所有法は決議の無効事由を定めておらず、決議に瑕疵があれば、原則として無効となると解すべきところ、集会決議が無効になれば、管理組合内部のみならず、第三者に対する関係においても影響を及ぼすことになるから、決議の瑕疵が重大でなく、かつ、その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には、当該瑕疵による決議の無効の主張は許されないものと解すべきである。
 本件は、管理組合の構成員の一部が訴訟等の当事者となって紛争が生じた場合の当該構成員個人において訴訟等に要した弁護士費用を管理組合が負担することについての承認決議であるが、当該構成員個人の訴訟費用の負担は、管理規約30条各号に定められた被告において行うことができる行為には含まれないものと解さざるを得ない。そして、管理組合において、その目的の範囲外のために管理費を支出するためには、原則として、当該組合に所属する構成員の全員の同意を要するものと解すべきであるが、本件決議は一定数が不承認であり、全会一致でない以上、本来は不承認の決議がされたものというべきである。そうすると、本件決議には、その決議の方法に重大な瑕疵があり、この瑕疵は決議の結果に影響を及ぼすべきものというべきであるから、本件決議を有効とみることはできない。
 また、本件決議は、その他の支出をまとめて、1つの承認又は不承認の決議を行う形式を取っており、各支出が不可分一体として決議されているというべきであることなどから、本件決議全体の無効を確認するほかないというべきである。

3 コメント

 一般社団法人法の類推適用による総会決議の取消しを否定したこと、総会決議に瑕疵があれば原則無効であるが、決議の瑕疵が重大でなく、かつ、その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には、当該瑕疵による決議の無効の主張は許されないとした点は、従来からの判例を踏襲したものといえます。
 本件で気になる点は、管理組合の複数の組合員に対する訴えの実質が個人的なものではなく、当該組合員らに対してプレッシャーを与えて、総会議決権行使を萎縮させる目的で行ったともとれる集会差止仮処分申立事件であり、管理組合が費用負担の決議をしたのは、当該事件に対応するための弁護士費用であると管理組合が反論した点について、当該仮処分については申立が認められており、管理組合主張の事実は認められないとして、管理組合の主張を排斥した点です。これは、あくまでも管理組合の主張を排斥するための判断ですが、原告側の不当目的が立証されれば、複数区の組合員個人に対する訴えについての弁護士費用を管理費で負担することも認められる余地があるともとれます。

(2022.11.26)

管理組合が区分所有者に対し、管理規約違反を主張してパラボナアンテナの撤去と弁護士費用等を請求し認められた事案(東京地判令和2年8月11日)

1 事案の概要

 マンションの組合が、マンションのバルコニー及びルーフバルコニーの各手摺りに複数の衛星放送受信用パラボラアンテナを設置している区分所有者に対し、管理規約に違反していることを理由として、各パラボラアンテナの撤去と管理規約に基づき違約金として弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求した事案。

2 裁判所の判断

(1)パラボナアンテナ等の撤去について

 マンションにおいては、住戸に接するバルコニーについて、区分所有者に専有使用権が認められ、区分所有者は通常のバルコニーとしての用法でこれを使用することができるものの、管理組合から管理上必要な指示がある場合は、それに従わなければならないとされていること、バルコニー及びルーフバルコニーに区分所有者が取り付けたパラボラアンテナ(本件アンテナを含む。)については、その部品の一部が落下したことがあることがうかがわれ、その結果、管理組合は、区分所有者に対し、本件アンテナ等の設置行為が管理規約に違反するとして本件アンテナ撤去を求めたが、区分所有者がこれに応じなかったことから、臨時総会決議を踏まえて、本件アンテナの撤去を求める訴訟を提起したことが認められる。そうすると、管理組合の本件アンテナの撤去要求は、組合員である本件建物居住者の安全を図るためなどからされたものと解することができ、その管理上必要な指示と考えられることから、管理組合は、本件規約に基づき、本件アンテナの撤去を求めることができると認められる。

(2)違約金としての弁護士費用等の請求について

 管理規約により、理事長は理事会の決議を経て、マンションの区分所有者に対し、管理規約等に違反する行為について必要な措置を請求するため訴訟その他の法的措置を追行することができ、この場合、相手方に対し、違約金としての弁護士費用等の諸費用を請求することができる。そして、区分所有者がバルコニーに本件アンテナを取り付けた行為が、管理規約に違反しており、そのため、管理組合が、訴訟代理人に、本件アンテナの撤去を求める訴訟の提起等を委任し、着手金、消費税並びに実費経費として57万円を支払い、さらに、その後に中間金として33万円を支払ったことが認められるから、管理組合は、管理規約に基づき、弁護士費用の既払分を違約金として請求できると解することが相当である。

3 コメント

 管理規約の定めに基づく請求であり、パラボナアンテナの撤去は、部品の一部が落下した事故があったことから認められ、弁護士費用等については管理規約に定めがあることから、既払金(着手金、実費、中間金、消費税)が認容されました。なお、管理組合も報酬分を請求していないことから、弁護士の報酬金については認容していません。

(2022.11.23)

管理組合の総会決議の無効確認及び決議取消について争われたがいずれも否定された事案(東京地判令和2年8月18日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者の一部の者により構成される管理組合に対し、組合員である区分所有者が、通常総会議案のうち、一部の議案に係る決議が、管理組合の目的外の行為である又は管理組合の管理規約に違反しているなどとして、主位的には、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律266条1項1号及び2号(類推)に基づく本件各決議の取消しを求め、予備的には、本件各決議の無効の確認を求めた事案である。

2 裁判所の判断

(1)一般社団法人法266条1項1号及び2号の類推適用の可否について

 一般社団法人法266条1項に基づく取消しの訴えの性質は形成の訴えであるところ、形成の訴えは、権利関係の変動を当事者間に限らず第三者との関係においても画一的に生じさせるという点で影響力が大きく、特に訴えをもって裁判所に権利関係の変動を求めていることができる旨を法が定めている場合に限り提起できるものである。このような形成の訴えの影響力の大きさや特殊性に照らすと、形成の訴えを安易に類推適用することは相当ではない。そして、区分所有法が同法3条の区分所有者の団体のうち法人格を取得した管理組合法人について一般社団法人法を準用する規定(区分所有法47条10項)には、一般社団法人法266条1項が含まれていないことからしても、管理組合について同項を適用することは予定されていないものと解される。したがって、一般社団法人ではない被告に同項を類推適用し本件各決議を取り消すことはできない。

(2)管理費等収支決算報告案及び監査報告案等の承認決議無効の確認の利益について

 「平成29年度 管理費等収支決算報告及び監査報告承認の件」、「建替え検討に係る弁護士費用支払い承認の件」、「平成30年度 管理費等収支予算案承認の件」に関する当事者間の紛争は、より直截には、管理組合による理事らや区分所有者ら個人に対する弁護士費用相当額の立替金返還請求あるいは不当利得返還請求等によってされるべきであり、仮に、管理組合の現在の多数派による上記各請求権の行使が事実上望めない場合には、組合員による理事らに対する責任追及という形でされるべきであり、確認の利益はない。

(3)「建替え検討に係る検討予算承認の件」の確認の利益について

 建替え検討の進捗のための裁判手続対応や第三者の意見取得等の費用として、上限を850万円とする予算の承認を求めるものであるがが、そもそも、どのような支出が「建替え検討の進捗のため」の費用に当たるかは、具体的な支出の費目について、個別に判断するほかないものであり、仮に、個別の費目について「建替え検討の進捗のため」に当たらず支出が許容されないものがあれば、より直截には、個別に支払を拒否したり、既払金の返還を求めたりすればよいものであるから、同議案を承認する決議の無効を確認したとしても、法律関係の存否を最も直接的かつ効果的に確定することにはならず、確認の履歴はない。

3 コメント

 区分所有法は、総会決議の手続き違反の効果や決議の取消について定めておらず、一般社団法人法を類推して法的主張がなされる場合があります。本件では、取消の訴えについて、類推適用を否定しました。

(2022.11.23)

区分所有法7条の先取特権に基づく配当要求に時効中断効を認めた最高裁判例(最判令和2年9月18日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの団地管理組合法人が、専有部分を担保不動産競売で取得した区分所有者に対し、建物部分の前の共有者が滞納していた管理費等の支払義務を当該区分所有者が承継したとして、その管理費等の支払を求めた事案。
 主たる争点は、管理組合法人が行った先取特権に基づく本件配当要求により、管理費等の一部について消滅時効の中断の効力が生じている否かである。

2 裁判所の判断

  区分所有法7条1項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、一般の先取特権である共益費用の先取特権(民法306条1号)とみなされるところ(区分所有法7条2項)、区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が不動産競売手続において民事執行法51条1項(同法188条で準用される場合を含む。)に基づく配当要求をする行為は、上記債権者が自ら担保不動産競売の申立てをする場合と同様、上記先取特権を行使して能動的に権利の実現をしようとするものである。また、上記配当要求をした上記債権者が配当等を受けるためには、配当要求債権につき上記先取特権を有することについて、執行裁判所において同法181条1項各号に掲げる文書(以下「法定文書」という。)により証明されたと認められることを要するのであって、上記の証明がされたと認められない場合には、上記配当要求は不適法なものとして執行裁判所により却下されるべきものとされている。これらは、区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権についても同様である。
 以上に鑑みると、不動産競売手続において区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより、上記配当要求における配当要求債権について、差押えに準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには、法定文書により上記債権者が上記先取特権を有することが上記手続において証明されれば足り、債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったことを要しないと解するのが相当である。

(2022.11.20)

区分所有者が管理組合に対し、総会決議が決議要件(頭数要件)を満たしておらず無効であると主張して争った事案(東京地判令和2年9月10日)

1 事案の概要

 本件は,マンションの区分所有者が,管理組合に対し,管理規約の変更(理事の総数や選任要件等の定め)についての総会決議が、管理規約に定めた決議要件(頭数要件)を満たしておらず無効であり、無効な変更後の管理規約に基づき選任された理事やその理事により招集された総会の決議も無効であるあるとして争った事案。
 主たる争点は、①決議の瑕疵が治癒されたか、②総会決議無効の主張が権利濫用かである。

2 裁判所の判断

(1)決議の瑕疵が治癒されたかについて

 元々の決議が無効ないし不存在であるとすると、無効ないし不存在の変更後の理事の定員及び資格要件に沿って選任された理事及び理事によって互選された理事長は適法に選任された者ではないことになるところ,招集権のない者によって招集された集会は,区分所有者全員が出席し,開催を承諾した等の特段の事情がない限り,区分所有法上の集会と評価することはできないから,同集会でされた決議も特段の事情がない限り,不存在と評価すべきである。
 そして,管理組合の総会決議について,区分所有法は無効事由を定めていないから,決議に瑕疵があれば原則として無効となると解すべきであるが、決議が無効となれば,管理組合内部のみならず,第三者に対する関係においても影響を及ぼすことに鑑み,決議の瑕疵が重大でなく,かつ,その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には,当該瑕疵による決議は無効を主張できないと解すべきである。
 本件では、本件では、議決権要件は満たしていたものの頭数要件は満たしておらず、管理規約に頭数要件を加えた趣旨が多くの床面積を持たない少数議決権者の権利を一定程度保護することにあることからすればこれを尊重すべきであり、頭数として不足していた人数が3名であったからといって,軽微な瑕疵であるとはいえないとした。そして、議案の内容が合理的であり、当該決議から13年間にわたって当該決議をもとに総会が運営されてきたこと、臨時総会において当該決議の問題がその後の議決等に影響が与えるものではないことを確認する議案が過半数で可決されているとしても、瑕疵は重大であることから、瑕疵は治癒されないとした。

(2)総会決議無効の主張が権利濫用かについて

総会決議無効を主張している区分所有者らは、当初の総会決議で委任状を出すなどして、総会後も決議に無効事由があったことも知る機会があったのであるから、12年も経ってから総会決議無効を主張するのは権利の濫用に当たるとした。

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 管理組合の総会決議について,区分所有法は無効事由を定めていないから,決議に瑕疵があれば原則として無効となると解すべきであるが、決議が無効となれば,管理組合内部のみならず,第三者に対する関係においても影響を及ぼすことに鑑み,決議の瑕疵が重大でなく,かつ,その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には,当該瑕疵による決議は無効を主張できないと解すべきであるとした点が参考となります。
 本件は、決議要件を満たしていなかった議案の内容が理事の人数や就任条件に関するものであったから、瑕疵は重大で治癒されないとしたものと思われます。

(2022.11.19)

マンションの賃貸人が漏水事故により損害を被ったとして賃貸人、管理組合及び管理会社に対して損害賠償請求した事案(東京地判令和2年9月25日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの一室の賃貸人が、建物における漏水事故(配管内の異物混入を原因とする)について、賃貸人に対し、債務不履行に基づき、管理組合に対し、民法709条又は民法717条1項に基づき、管理会社に対し、民法709条又は民法717条1項に基づき、それぞれ損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、賃貸人に対し、予備的に、不当利得返還請求権に基づき、賃料相当額の返還を求める事案。

2 裁判所の判断

(1)管理組合及び管理会社の民法709条の責任について

 漏水事故が発生する以前に配管内に異物が混入していることをうかがわせるような不具合が生じた等の事情は認められないから、管理組合又は管理会社がマンションの共用部分の修繕、保守点検等として、配管内の状態を確認する検査を行う義務を負っていたということはできず、異物を発見することができなかったとしても、このことにより配管の管理を怠ったということはできず、不法行為責任は成立しない。
 なお、管理規約上、給排水衛生設備は、専有部分に属さない建物の附属部分として、共用部分に属するものとされている。

(2)管理組合及び管理会社の民法717条の責任について

 管理組合は、区分所有法3条の管理組合として、マンションの共用部分を管理しているものの、共用部分は、本件マンションの区分所有者全員の共用に供されるべき部分であるから、マンションの区分所有者全員がこれを占有しているというべきであって、管理組合が上記共用部分の管理をしていることをもって、これを占有しているということはできない。
 同様に、管理会社は、管理組合からマンションの共用部分の管理を委託されているものの、管理組合が共有部分を占有しているといえない以上、被管理会社もこれを占有しているということはできない。
 したがって、配管の設置又は保存に瑕疵があり、これにより事故が生じたとしても、管理組合や管理会社がこれを占有していたということはできず、工作物責任は負わない。

(3)賃貸人の債務不履行について

 事故は、配管の内部に本件角材が混入し、その周囲に本件配管の内部を流れる物体が詰まり、これらが配管を塞いだことを原因として発生したものと認められるところ、配管に角材が混入した経緯は不明であって、管理組合又は管理会社が配管の管理を怠ったということはできない上、配管は共用部分に属し、賃貸人は、配管を直接管理し得る立場にはない。また、事故が発生した後、建物について修繕を行う前提となる建物の調査が行われるまでに7か月余りが経過しているところ、賃借人は、賃貸人及び管理会社の各担当者が調査への協力を要請しても、これに応じなかったことが認められ、そのために賃貸人が建物の修繕を行うことができなかったものというべきであるから、事故の後、直ちに修繕が行われなかったことについても、賃他人が修繕義務を怠ったということはできない。以上により、賃貸人が債務不履行責任を負うということはできない。

3 コメント

 本件は、共用部分である配管のトラブルが原因となって専有部分に漏水等の事故が生じた事案です。このような場合、裁判例では、区分所有者が管理組合に対し、不法行為や管理組合との委任契約に基づいて損害賠償請求をするという形で争いとなりますが、区分所有者と管理組合に委任契約があるかについては明確に判断しておらず、区分所有法3条、19条、23条や管理規約ともに管理組合が負担すべきとしています。ただ、判示内容を見る限り、管理組合に過失がない場合にも管理組合が賠償責任を負うかについては明確ではありません。もっとも、実際は、保険対応で処理される場合が多いと思われます。
 本件は、専有部分を賃貸にしていたので、賃借人が賃貸人の債務不履行責任、管理組合及び管理会社の不法行為責任及び工作物責任を追及する形をとっています。もっとも、配管トラブルの責任が施工業者にあると考えられ、管理組合や管理会社に過失は認められないことから不法行為責任は負わず、管理組合はマンションの共用部分を管理していますが、共用部分はマンションの区分所有者全員が占有しているというべきであるから、管理組合は占有者に当たらず工作物責任を負わないとされました(東京高判平成29年3月15日同旨)。なお、管理組合が工作物責任を負う旨判示した裁判例もあります。

(2022.11.19)